生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 事後評価結果

エリシターシグナル伝達過程の解析に基づく高度環境適応性作 物開発のための基礎研究

(独立行政法人 農業生物資源研究所 渋谷 直人)    

評価結果概要

全体評価

本研究は、植物病原糸状菌(イネいもち病菌)の細胞壁成分であるキチンあるいはβグルカンのオリゴマーがエリシターとしてイネに与える影響を、受容体タンパク、シグナル伝達系、遺伝子発現など多様な側面から解析したものである。イネいもち病菌細胞壁βグルカンから強いエリシター活性を示す新規5糖を単離し、構造を明らかにするとともに、キチン系エリシターの2相性を示す活性酸素生成とホスホリパーゼ(PLC、PLD)の関与を明らかにした。エリシター受容体と想定される膜糖タンパク質を単離精製し、膜上で2量体を形成しシグナル伝達することを示したが、候補となるcDNAは得られなかった。エリシターにより誘導される活性酸素生成や一部遺伝子の発現は、PLC/PLDの活性化とホスファチジン酸の生成により制御されており、エリシター応答性遺伝子発現に至るシグナル伝達経路は、複雑な分岐構造をもち、上流にCa2+による制御が存在することを示唆したものの本質的なことは分からなかったようである。エリシター初期応答遺伝子として単離したRing-H2-finger型遺伝子(EL5)はユビキチンリガーゼであることを明らかにし、エリシター応答に際しタンパク分解系が活性化されていることを示した。以上、多くの成果は認められるものの、総じて学術的にインパクト性の高いものは多くない。研究目標への達成度はまずまずであるが、研究成果はいささか厳しい評価にならざるを得ない。研究目標としていたエリシター受容体の本体が捕まえられなかったことは残念であり、プロジェクト進展を阻害したことはいなめない。本プロジェクト発足当時に問題を絞り込む必要があった。今後、問題が浮き彫りされたことを踏まえ、実用面を睨みながらさらなる躍進されることを期待したい。