生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 事後評価結果

植物における呼吸調節機構の解明とその機能制御

(東京大学大学院農学生命科学研究科 平井篤志)    

評価結果概要

全体評価

細胞内小器官のひとつであるミトコンドリアに在る遺伝情報の生物学的機能を明らかにすることは重要な研究テーマーであるが、本研究では、中課題(1)については解析に深みがなく、「核とミトコンドリアのクロストーク」と言いながら、その本体に迫る解析が極めて弱かったように思われる。中課題(2)でのミトコンドリアゲノム全塩基配列の解析の成果は認められるとしても、目標のもう一つである細胞質雄性不稔の原因遺伝子まで、確定できなかったことは残念であった。また、中課題(1)と(2)の協調性があまり見られなかったことは本プロジェクトの密度を濃くすることができなかった要因の一つであるように感じるし、本プロジェクトの幹であるミトコンドリアに関する研究はそれなりの成果は挙げたが、農業への応用という点ではあまり見るべきものはないということが出来る。全体としての研究成果の公表の面でも不満は残った。

中課題別評価

(1)環境応答における核・ミトコンドリアのクロストーク解析
(東京大学大学院農学生命科学研究科 平井篤志)

イネを対象に、呼吸に関わるチトクローム系、シアン耐性呼吸系、脱共役タンパク質などの核遺伝子のクローン化と構造解析や、冠水条件下等での発現応答を解析しているが、研究手法や得られた知見には特筆すべき点はほとんどない。イネの冠水抵抗性がミトコンドリア型アルデヒト脱水酵素(ALDH2)の発現によるアルデヒトの無毒化によることを明らかにしたこと、シロイヌナズナでALDH2を強発現させることにより低酸素抵抗性を付与できることに成功した点は評価できよう。しかし、本課題の主テーマである核とミトコンドリアのクロストークの解析は極めて弱い。

(2)雄性不稔発現の分子機構解明
(北海道大学大学院農学研究科 三上哲夫)    

テンサイの正常株と雄性不稔株のミトコンドリアゲノムの全塩基配列を決定し、それぞれ368,799bp、501,022bpからなることを明らかにした。これは農作物としては世界初のものであり、植物全体を通してもアラビドプシスに次いで2番目であり、両植物の比較によりミトコンドリアゲノム形成の進化的側面に示唆的知見をもたらした点も評価できる。しかし、本中課題の主要な目的であった雄性不稔原因遺伝子の同定まで至らなかったのは残念である。今後、この成果を十分に生かした研究戦略を立てて、当初の目標を達成してほしい。