生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 事後評価結果

食用植物由来の酸化ストレス制御因子に関する基盤的研究

(名古屋大学大学院生命農学研究科 大澤俊彦)    

評価結果概要

全体評価

本課題は酸化ストレスにより誘発される疾病の予防を目的とした高機能食品素材の探索及び多機能性成分含有植物の創出ならびにそのための生理機能評価の総合的解析システムの構築を目的としたものである。目標設定がこのように大きいことから、最終成果のインパクトがどのようになるかが注視された。それぞれの中課題はそれなりの成果を挙げていること、食品中の酸化抑制因子に関する研究のボトムアップが果されたことは評価される。しかし、すべての中課題が連携を保って一つの結論に収斂するような形にはなっておらず、全体としては羅列的になった。これは中課題の一部を除いてほとんどが定性的な成果であったことによると考えられる。その上、評価が非ヒト系で行われたことも実用的な面も含めてインパクトを弱めていると思われる。

中課題別評価

(1)酸化ストレス制御因子含有食用植物素材の探索と評価システムの構築
(名古屋大学大学院生命農学研究科 大澤俊彦)

強い抗酸化ストレス作用をもつアントシアニンの一種であるシアニジン3-グルコシドならびにグルタチオンS-トランスフェラ-ゼ誘導作用をもつワサビの6-メチルスルフィニルイソチオシアネ-トの単離及び生理作用の研究は評価される。また、各酸化抑制因子の抗炎症作用、眼球混濁抑制作用、糖尿病白内障抑制作用などを明らかにしたことは評価される。このように多彩な成果が呈示されたが、主にラットや動物培養細胞に限定される評価となった点は惜しまれる。

(2)植物性食品中の機能性色素の生体内動態の解明
(独立行政法人 食品総合研究所 長尾昭彦)

植物性食品中の機能性色素であるカロテノイドに注目して、その代謝に対する食品成分の影響を明らかにするとともに、その酸化開裂産物が細胞増殖を抑制すること、及びその作用の一部はアポト-シス誘導によることを明らかにしたことは評価される。これらの成果の応用への展開は今後の問題であろう。

(3)植物性食品中の機能性色素の酸化ストレス制御機構の解明
(徳島大学医学部 寺尾純二)    

代表的なフラボノイドであるケルセチン及びケルセチン配糖体の吸収・代謝・抗酸化作用をラット及びヒトにおいて定量的に解析したことは高く評価される。

(4)新しい酸化ストレス応答遺伝子の探索と細胞・個体レベルにおける抗酸化剤評価系の確立に関する研究
(京都大学大学院医学研究科 豊国伸哉)

酸化ストレスにより発現が誘導または抑制される遺伝子を見出した。多くの問題に取組んでそれなりの成果を得ているが、本中課題としてまとまった明快な結論を得ていない点が多少気になる。酸化ストレスに関連した遺伝子についての今後の利用展開を見守りたい。

(5)酸化ストレス制御成分高含有食用植物の創出
(三重大学生物資源学部 田代享)    

ニンニク及びゴマの酸化抑制因子の含有量が施肥により変化することを確認したこと、ニンニク、ゴマ及びイネについて酸化抑制因子の含有量が高い品種を明らかにしたこと、イネにアントシアニンを発現させる基礎実験を行ったことなどが評価される。しかし、多くのことを手がけた結果として、本中課題としてまとまった明快な結論を得ていない点が多少気になる。ヒトへの展開という点ではニンニク、ゴマ及びコメは有望であり、成果をもとにさらに発展されることを期待する。

(6)香辛植物に含まれる酸化抑制因子の解明
(大阪市立大学大学院生活科学研究科 中谷延二)

熱帯・亜熱帯に産する香辛植物に含まれる抗酸化活性をもつ物質を探索し、ポリフェノ-ル、フラボノイドなど140種の化合物(このうち新規化合物として22種)を単離・同定したことは評価される。応用面での展開は今後の問題となる。