生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 事後評価結果

植物の情報シグナルによる植物-害虫-天敵三者間の免疫的相互作用(生態免疫系)に関する基礎的研究

(京都大学生態学研究センター 高林 純示)    

評価結果概要

全体評価

本課題の、害虫と植物(作物)との関係を、植物-害虫-天敵の三者間の関係として取り上げ、被害植物が、害虫による食害が刺激となって天敵誘引物質を生産し始めるという現象に、生化学的・分子生物学的側面から切り込んでゆくという着想は、ユニークであった。
化学生態学的解析グループでは、三者間の相互作用という極めて興味深い生物現象を機構解析し、複数の三者系でもこの現象が広く成立することを明らかにして、その現象の一般性を確認した。
分子生物学的解析については、化学生態学的解析グループの研究を遺伝子レベルで立証するため、「匂い物質」の化学的組成、その生産誘導機構の遺伝子レベルでの解明、植物で知られている傷害応答シグナル伝達機構との統一的解釈、害虫被害時の植物における発現遺伝子の網羅的同定のほか、「プラントトーク」現象の遺伝子レベルでの実証、さらには組換え植物作出による解析など、計画に沿った一連の優れた成果をあげている。
これらの成果は、生態系を構成する多様な生物間相互作用の一部を、シグナル伝達系という側面から明らかにし、その応用への道筋を示した。本当の意味での応用にはまだ距離があるが、この課題で取り上げたテーマとその成果は、生態系を構成する多様な生物の相互作用の理解に基づいて、生物間相互作用の制御、ひいては農業生態系そのものの制御・管理へとつながる確かな道を拓く大きな一歩となった。