生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 事後評価結果

微生物由来の環境保全型害虫防除蛋白質に関する基盤研究

(岡山大学工学部 酒井 裕)

評価結果概要

全体評価

本課題は、BTタンパク質の弱点を克服するため、(1)殺虫スペクトルが広く殺虫効力が持続するタンパク質の開発とそれを用いたトランスジェニック藍藻の作出、(2)BTタンパク質と細胞膜との結合機構を利用した効率よい害虫防除システムの構築を当初の目標とした。3年目にタンパク質の高生産、殺虫機能解析、ゲノム解析など基盤研究へシフトしたが、本課題は目標設定が過大であり、当初目標と実行計画に無理があったといわざるを得ない。本課題では、殺虫性蛋白質に関して基礎的な知見がある程度蓄積されたことが、この分野の今後の展開に一定の貢献となった。特筆すべきものは,カイコのCry1Aa受容タンパク質の多型を発見したことと、その遺伝子を哺乳動物細胞に導入することによって、哺乳動物細胞がCry1Aaタンパク質に感受性になることを示したことである。これは、Cry1Aaタンパク質の作用メカニズムに関して単純明快な答えを与えるものとして評価される。しかしながら、本チーム全体の研究成果としては、5年間の研究の蓄積という迫力に乏しく、原著論文等の質量とも十分でない。

中課題別評価

(1)環境保全型害虫防除剤の殺虫メカニズムに関する研究
(大阪府立大学大学院農学生命科学研究科 姫野道夫/杉本憲治)    

本課題は、昆虫中腸上皮細胞にあるトキシン受容体を哺乳動物細胞で発現させ、細胞へのトキシンの結合と細胞死とを分別調査できる系の開発を目的とした。主要成果は、トキシンの細胞膜への結合能と細胞破壊能を区別できる系を作出し、Cry蛋白質に対する細胞の感受性がその受容体のみによって決定されるらしいこと、このCry蛋白質に対する耐性獲得もCry蛋白質受容体の変化が決定的役割を果たしているらしいことを示した点であり、評価できる。Cry蛋白質とジフテリア毒素とのハイブリッド分子の作成については、作成した4種の融合蛋白質では、全CryトキシンとCドメインを連結したキメラのみがCry1Aaの20分の1の活性を示したにとどまった。本項目はデザインの不的確のため十分な成果が得られなかったと考えられる。

(2)環境インパクトの小さい殺虫蛋白質の動態解析と害虫防除システムの構築
(岡山大学工学部 酒井 裕)

双翅目昆虫特異的な殺虫蛋白質分子Cry4Aを中心に、その活性発現プロセスを明らかにしたこと、キメラ蛋白質の活性評価から活性に関与する構造部分を推定したことなど、今後さらなる検証が必要であるが、一定の評価をされるべき成果が見られる。しかし、Cry蛋白質の特性を改変する目的でドメインシャフリングにより作成されたキメラCry蛋白質18種からは、残念ながら天然のCry1Cを越える生物活性を示すものを見出すにはいたらなかった。すなわち、単なるドメインシャフリングでは偶然によるほかは新規な物は作製できずこの種の研究をサイエンスとするには機能と構造の相関に基づいたスワッピングのための戦略が必要である。この課題ではその戦略的デザインを提案するための基盤研究に重点をおくべきであったといえる。

(3)微生物由来害虫防除蛋白質の高生産技術の開発
(信州大学農学部 千 菊夫)    

Btiが生産する分子シャペロンと考えられる20kDaタンパク質p20の安定化機構を解明し、それを利用したCryトキシン高生産能微生物の育種を目指した。本課題の中核をなす殺虫性蛋白質の効率的生産技術の開発は、安定化機構にかかわるとされる特異蛋白質(p20)の特性解明が計画どおりには進まず、わずかにp20保持組換えCry4A生産株のいくつかがワイルドCry4A生産株より高い生産能を示したにとどまった。一定の進捗を見たのはプラスミドpBTI-6 の制限地図の作成と遺伝子解析のみであり、特筆すべき新発見が得られなかったのが惜しまれる。

(4)新規な有害双翅目昆虫特異的殺虫タンパク質を生産するBT菌のスクリーニングと遺伝子解析
(近畿大学生物理工学部 武部 聡)

本課題は中間時点以降にようやく進展がみられ、degenerateプライマーを用いたPCR法によるCry蛋白質遺伝子の選択的探索を可能とする手法を確立した。アイデアはすでに確立したもので新規性はないが一貫した探索系を構築する工夫が見られる。この探索系による本格的な研究推進が開始されたとはいえ、残り期間が少ないことから決定的成果を見るにはいたっていない。当初目標の遺伝子工学手法による高活性殺虫蛋白質の構築にはまったく手がつかない状態である。特筆すべき発見や実用面でも相当の意義ある成果が得られたとはいえない。