生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 事後評価結果

継代培養細胞を用いた家畜繁殖技術の開発に関する基礎的研究

(近畿大学農学部 角田幸雄)

評価結果概要

全体評価

  • 本研究は、今後の優れた家畜繁殖技術の開発に資するため、2つの研究チームが協力して、各種の体細胞、胎子生殖細胞、初期胚などから培養細胞株を樹立し、生殖細胞の場合には遺伝子導入を行った上で、これらの細胞から個体を作出する技術や生殖細胞から雌雄配偶子への分化を制御する技術などの開発を目指して実施された。
  • 研究の結果、世界に先駆けて体細胞クローン牛の作出に成功したほか、精巣内遺伝子導入法によって遺伝子導入個体を得る技術を開発するなどの成果を挙げた。特に世界初の体細胞クローン牛作出の成果は、内外に大きなインパクトを与えた成果であり、高く評価できる。
  • しかしながら、一方で、体細胞クローン個体で問題となっている異常発現の原因究明や以下で述べるような幾つかの重要な基礎的研究課題については今後の研究課題として残されており、全体的な成果としては物足りなさを感じる。

中課題別評価

(1)家畜初期胚ならびに体細胞由来細胞株の樹立と個体発生に関する研究
(近畿大学農学部 角田幸雄)

  • 本中課題では、集約すると、(1)「安定的に体細胞クローン家畜を作出できる技術」と(2)「マウスやウシのES細胞株の樹立とその細胞から個体を作出する技術」の2つの技術開発を目標に実施された。
  • 研究の結果、(1)の課題では前述したように世界初の体細胞クローン牛を作出するという大きな成果を挙げている。また、(2)の課題ではマウスにおいてES細胞株を作出し、その細胞からクローン個体を得ることに成功している。
  • しかしながら、重要な研究目標であるウシのES細胞株の樹立の課題については未達成に終わっており、また、体細胞クローン牛において問題となっている流死産等の異常多発の原因究明についても、今後の検討課題として残されている。
    特に、体細胞クローン家畜の作出技術については、実用化までにはまだ多くの解決すべき課題が残されていると考えられるので、今後は他の研究者とも協力して、さらなる取り組みを期待したい。

(2)胎子生殖細胞と生殖細胞株を使った発生工学技術の開発
(京都大学再生医科学研究所 中辻憲夫)

  • 本中課題では、集約すると、(1)「生殖細胞への遺伝子導入と遺伝子導入細胞からの個体作出技術」と(2)「体外培養下の生殖細胞から雌雄配偶子へ分化させる技術開発と分化制御メカニズムの解明」の2つの技術開発を目標として研究が行われた。
  • 研究の結果、(1)の課題ではマウス精巣内に電気的刺激を与えることによって遺伝子を導入し、マーカーを利用して遺伝子導入精子を選抜後に顕微受精によって遺伝子導入個体を得ることに成功し、(2)の課題では体外培養でマウスの始原生殖細胞から卵母細胞への分化に成功するなどの成果を挙げている。このうち前者の成果については、遺伝子導入から個体作出までの一連の技術を完成させた点でオリジナリテイがみられ評価される。
  • しかしながら、(1)で開発した遺伝子導入法はまだ家畜については成功しておらず、また、(2)の基礎的研究課題の多くは当初の目標を達成するまでに至っていない。特に後者の課題は、基礎生物学としても応用科学としても極めてオリジナリティの高い課題であったことから、もう一歩積極的な取り組みが望まれた。