生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2002年度 事後評価結果

細胞に作らせる糖鎖ライブラリーと機能性糖鎖高分子

(慶応義塾大学理工学部 佐藤 智典)

評価結果概要

全体評価

  糖鎖ライブラリーの構築は、糖鎖生物学の進展、その実用化に向けてのアプローチにとって、不可欠の重要研究課題の一つである。しかし、糖鎖分子の多量供給が非常に困難であるため、この領域の発展のための大きな障害となっている。
  本研究では、化学的な糖鎖合成法や、酵素を用いた酵素合成法をはるかにしのぐ、「細胞を糖鎖合成の場として用いる」という全くユニークな方法によって糖鎖を多量合成することに成功している。このような方法を5年前に提案したことは、申請者らに先見性があったことを証明しており、ポストゲノムの中心として注目されている糖鎖工学、糖鎖生物学の領域に大きなインパクトを与えるものである。しかも、プライマーと呼ばれる原料と、用いる細胞の組み合わせによって、多様な種類の糖鎖を半ば自在に作り出すことができるのは驚きであり、本研究で得られた知見は、この領域の進展に大きく貢献するものと考える。

中課題別評価

(1)「新規糖鎖プライマーのデザインと合成」
(東京工業大学生命理工学部 橋本 弘信)

  糖鎖プライマーの化学合成を担当する本研究グループは、いわば、縁の下の力持ち的な存在である。種々の糖脂質型糖鎖の合成において、本研究グループが果たした役割や成果は大きい。
一方、糖タンパク型糖鎖の合成においては、有効な糖鎖プライマーの合成に到達できず、中間評価以降、幾つかのプライマー候補物質の合成を行ってはいるが、際だった成果は見られなかった。

(2)「糖鎖ライブラリーの作製と糖鎖高分子の開発」
(慶応義塾大学理工学部 佐藤 智典)

  本研究における最も重要な目的である糖鎖ライブラリーの作成と、それらを糖鎖高分子へと導く役割を持つ本研究グループは、コンスタントに成果を挙げた。研究は幅広く行われ、糖鎖プライマーとして17種を用いて、7種の細胞により、糖脂質型糖鎖のライブラリーを49種類作成するとともに、その大量生成法の確立、機能性高分子や、糖鎖チップの作成の基本的な方法論の確立など、多岐にわたる成果は高く評価される。今後、糖鎖ライブラリーの構築を完成し、生命科学へ大いに寄与することが期待される。

(3)「糖鎖プライマーの細胞生物学的影響の評価」
((財)日本皮革研究所 山形 達也)

  細胞を工場として使用する場合に必要な情報となる、糖鎖プライマーの細胞生物学的影響の評価を受け持つことが、当初の本研究グループの役割であったが、実際は細胞内における糖鎖プライマーの挙動の検討や糖鎖の生合成経路の解明という基礎的な研究が行われた。
糖脂質糖鎖プライマーの細胞内動態を詳細に検討した結果は高く評価できるが、研究全体から見て非常に曖昧な役割を担っていたと思われる。