生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2002年度 事後評価結果

植物の形態形成を制御する転写因子の機能解明と利用法の開発

((独)農業生物資源研究所 高辻 博志)

評価結果概要

全体評価

本研究は、転写に関する遺伝子群から植物の形態形成との関わりを見たもので、植物の一生の間で、多くの転写因子が一定の機能を果たしていることを考えると、転写因子と現象を結びつける研究は重要である。
しかし、こうした研究においては、どのような形質が重要であるかについて、あらかじめ判断することが困難であることから、どうしても研究が網羅的になり、分散的になる。
本研究では10以上の転写因子を研究対象とし、予想を超えた新規な遺伝子発現や受精現象を発見したり、新しい研究の芽を見つけるなど、個々には、興味ある発展がみられた。
本研究の第一の目標が転写因子群の整理にあったとすると、本研究はほぼその目標は達成したと評価できる。しかし、全体として眺めると一つの共通の現象を解析したものとはいえず、形態形成への転写因子の関わり方という大きな研究目標については、十分達成したとはいいがたい。特に、2つの中課題間の連携がほとんど見られなかった点については、当初から、ある程度予想されていたとはいえ、課題の設定上問題を残した。

中課題別評価

(1)「植物形態形成を制御するジンクフィンガー型転写因子の機 能解析」
((独)農業生物資源研究所 高辻 博志)

本研究は、突然変異体や形質転換体を用いる手法によって、地上部や花器官の形態制御、花粉や胚乳の発達ならびにストレス応答に関与するジンクフィンガー型転写因子の機能同定を行い、それらの転写因子の機能発現機構を細胞学的・生理学的・分子生物学的に解析した、異なる5つの研究課題を抱えた研究であった。ZF因子の役割について先駆的な研究を行い、多様な生理的役割があることを示した功績は大きい。ただし、テーマにより、進度にばらつきが見られ、全体として、少し研究が散漫になった。
しかし、ここで得られた成果は、有用と見られる形質を付与する手段を獲得したことを意味し、今後の応用的期待は大きいと思われる。

(2)「植物形態形成の可変性を支配するホメオドメイン蛋白質の 機能解析」
(京都大学化学研究所 青山 卓史)

本研究は、植物の環境応答における形態形成に関与するホメオドメイン-ロイシンジッパー型転写因子について、逆遺伝学的手法を用い、過剰発現形質を手がかりに、標的遺伝子に重点を置いて機能解析した。
個別的には、それなりにレベルの高い成果を出しているが、研究の方向性が曖昧であり、最後までハッキリした方向性が出せず、結果的にみれば、当初期待されたほどの成果を出したとはいいがたい。
しかし、今後の研究の基礎は、十分築き得たと判断される。