生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 事後評価結果

共生微生物等を利用した荒廃土壌の修復技術の開発

((独)農業環境技術研究所 齋藤 雅典)

評価結果概要

全体評価

この研究は荒廃土壌の修復技術として従来使われていなかった生物や現象の実用化を試みたもので、その点は評価できる。ただし、これまでにも共生微生物を植林や緑化に用いる試みは数多く試みられているが、成功例は極めて少なく、まして新しい生物資材を実用化するのは容易ではない。
しかし、いかに困難とはいえ、大気中に放出された二酸化炭素を吸収固定するには、現在のところ緑化以外に有効な方法がなく、この研究を契機として、あらゆる可能性のある方策が試行錯誤されることを期待したい。
荒廃地土壌の緑化に求められる最も重要な技術は、乾燥などの土壌環境などを克服する手法の開発と、極度に劣化した土壌養分供給能力を回復させる技術の開発である。本研究で取り上げられた手法は、植物の根圏に共生微生物を安定的に生息させることによって、生態的で、持続性のある修復技術を確立させようとするものであり、修復には時間がかかるが、着実な方法として注目される。本研究では、植物根圏と共生微生物に関する基礎的な知見を得ることを根幹に置いており、それぞれの課題で一定の成果が得られたことは評価出来る。今後は、より乾燥度が厳しい条件を設定した研究を期待したい。

中課題別評価

(1)「耐乾性ラン藻の耐乾機構解明とラン藻を利用した荒廃乾燥土壌修復技術の開発」
(東京大学大学院総合文化研究科 大森 正之)

耐乾性ラン藻という興味深い素材に注目し、乾燥等の環境ストレスの認識機構と、耐乾性の発現機構について一定の成果を上げたことは評価できる。
ラン藻は生物の進化からみても、生態学的にみても興味ある対象であり、特に耐乾性機構と耐塩性機構が連動しているように見える点は、水生から陸生へと進化する過程を追跡する足がかりになるのではないかと思われる。今後の研究継続により大きな成果につながるように期待したい。

(2)「パイオニア植物におけるエンドフィティック共生微生物の機能解明とその利用技術開発」
(東北大学大学院生命科学研究科 南澤 究)
パイオニア植物におけるエンドフィティックな窒素固定菌の存在の確認、活性発現の検出と嫌気性窒素固定コンソーシアム(ANFICO)の新発見など十分な成果を上げた。
最も興味ある研究成果は、予測された計画の中で得られるものではなく、枝葉の部分から派生してくる。本当の基礎研究は、現象の観察や把握から始まり、独自の方法によって展開される。この研究課題では当初の計画と異なる結果が得られたが、その後の研究展開は極めて望ましいものであった。新しい事実を見つけただけでなく、それを理論的に展開した点は高く評価できる。今後はこれらの現象を普遍化し、共生に至る過程を完全に解明されることを期待している。

(3)「パイオニア植物におけるVA菌根菌の機能解明とその利用技術開発」
((独)農業・生物系特定産業技術研究機構 畜産草地研究所 安藤 象太郎)

(4)「パイオニア植物におけるVA菌根菌の機能解明とその利用技術開発」
((独)農業環境技術研究所 齋藤 雅典)
本課題では主としてVA菌根菌に関する基礎的な研究蓄積が行われ、いくつかの新しい手法が考案、開発され、中課題(5)の中でも活用された。VA菌根菌の機能の中でも、土壌からのリンの吸収、貯蔵、移動と植物への輸送、その定量的測定など未解明な点が多かったが、本研究ではそれらの問題を新たな手法を用いて、きれいに体系化している。これらの研究成果は今後VA菌根菌の研究者だけでなく、植物と糸状菌との相互関係を研究する者にとっても有用になると思われる。
VA菌根菌を緑化に用いる技術は10数年前に開発され、すでに事業として実施されており、その効果は一般に認められている。しかし、VA菌根菌を緑化に実際に利用しようとする時には、効率の高い種や系統の選抜、確実な接種、長期間の生存等まだ多くの未解決な問題が残されている。今後は、低コストで胞子を大量生産し、高効率に感染させる媒体の開発を期待したい。

(5)「共生微生物等の機能を活用した荒廃土壌の新修復技術の開発」
(山口大学農学部 丸本 卓哉)
この課題が期待された目標を達成するに至らなかった背景には、多くの異質な材料をすべて利用可能にしようとし、異なる専門分野の研究を短期間で同時に進行させようとした、余りに意欲的過ぎる計画があったと思われる。実用化を図るための資材開発研究にはフィールド実験やコスト計算、資材の比較検討などが必要であり、今後は民間企業との共同開発を行うなど推進方法についても十分検討が必要である。
実用化研究につきまとう困難さのために、成果が大きくないこともやむを得ない。