生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 事後評価結果

抗病性産業動物の作出に関する分子遺伝学的研究

(藤田保健衛生大学総合医科学研究所 橋本 敬一郎)

評価結果概要

全体評価

本研究は、抗病性に関与すると予想されるMHC遺伝子群及びMHC遺伝子領域の解析を行い、抗病性に関連する遺伝子群を解明し、これまで哺乳動物と比べて生体防御系の知見が乏しい魚類、鶏等の産業動物の疾病対策に資することを目的としたものである。
硬骨魚のニジマスでは、MHCクラスI遺伝子の解析から興味ある基礎的知見が得られた。本研究で確立された白血球型の分類法を利用してウィルス抵抗性、ワクチン反応性との関連についての研究が行われたが、これらはまだ予備的段階の成果にとどまっている。
一方、軟骨魚のドチザメでは、新規MHC関連遺伝子が見いだされ、中でもDS-3は分子進化的に非常に興味あるもので、MHC遺伝子群の総合的理解に役立つものとして高く評価できる。
ニワトリのマレック病(MD)抵抗性に関しては、遺伝子の全塩基配列が英国から発表されていたため、B19(MD感受性系統)とB21(MD抵抗性系統)遺伝子の構造解析に重点が置かれたが、その成果は中間的段階にとどまった。そのほか、TNFα遺伝子との関連についても予備的成果にとどまった。
このように、魚類に関しては国際的に最先端の研究体制ができたものみなせる。抗病性については、予備的段階であるが、研究基盤が確立されたことから、魚病対策に関わる基礎的研究の進展が期待できる。また、魚類や鳥類の研究で得られたMHC遺伝子に関する基礎的知見は、分子進化の視点からMHC関連遺伝子の総合的理解に貢献するであろう。

中課題別評価

(1)「ニジマスMHC遺伝子の多様性及び機能の解析に関する基礎研究」
((独) 水産総合研究センタ-養殖研究所 乙竹充)

ニジマス古典MHCクラスI Onmy-UBAに関する発現様式を解析し、一定の成果を挙げている。培養細胞を用いたIHNウィルスの感染実験により、Onm-UBA-501MHCクラスI型とウィルス抵抗性との関連性を明らかにした点は、評価できる。魚類でのウィルス感染実験は、何かと困難であったと思われるが、IHNウィルス感染実験で死亡率と遺伝子型との関連性を明らかにしたことは評価できる。本成果により、抗病性ニジマス選抜の基盤が築かれたと考える。

(2)「新規MHC関連遺伝子群の構造並びに機能の解明」
(藤田保健衛生大学総合医科学研究所 橋本敬一郎)

新規MHC関連遺伝子を単離することに成功し、得られた研究成果の水準やインパクトは高い。特に、MHC分子群の進化学的な成立に関する仮説は、学術的に高い水準にあり、独創性もある。しかし、新規MHC関連遺伝子が抗病性にどのような役割を担っているかという機能解明が不十分であり、成果の実用性については、高いとはいえない。

(3)「ニワトリMHC遺伝子領域におけるマレック病関連遺伝子の探索とその探索マ-カ-の開発」
(広島大学大学院生物圏科学研究所 山本義雄)

HC領域のいくつかの遺伝子に抗病性と連鎖するアミノ酸変異を発見したが、時間的な制約のため、それらの変異と抗病性との関連は不明なままに終わった。B21とB19間の抗病性の差は明らかであるが、両者の差異の原因を遺伝子レベルで解明できなかったことは、残念である。