生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 事後評価結果

昆虫細胞成長因子の機能解明と利用に向けた基礎研究

(北海道大学低温科学研究所 早川 洋一)

評価結果概要

全体評価

本課題の研究対象である生理活性ペプチドGBPは、哺乳類におけるそれらと比較すると、その分子量がきわめて小さいものの、その生理活性はむしろ高いという驚くべき性質をもっている。また、こうした活性ペプチドがアワヨトウ一種だけでもGBPのほかに5種類は存在することが示され、カイコにおいてもBmPPのほかに数種の活性物質の存在が示唆された。さらに、こうしたガ類昆虫とは別の分類群であるハエやカなどの双翅目ではガ類とはまったく異なった活性ペプチドがあることが示され、昆虫類におけるサイトカインの多様性とともに、その特性・機能と応用についての尽きない興味と可能性が示されたといえる。GBPはこれまでまったく手つかずであった昆虫由来の細胞成長因子であるので、これを手がかりとして新規昆虫成長因子の探索を精力的に進めれば、直接動物薬、医薬などへの応用に結びつく成果も得られると期待される。また、昆虫あるいは細胞培養系を利用しての有用活性物質生産系の効率にも大いに貢献できるものと期待される。

中課題別評価

(1)「昆虫成長因子の作用機構解明と新規成長因子の探索」
(北海道大学低温科学研究所 早川洋一)

研究代表者のチームが担当した本中課題は、この研究課題の中核をなす部分であり、特に注目されるべき成果は、GBPの機能の多様性の解明、GBPが合成・分泌される組織としての食道下体の機能の発見、GBPレセプターにおける多様性の示唆、GBP結合蛋白の機能と特性解明などである。当初計画のうちGBPレセプターにかかわる部分の進展が若干遅かったことが他の中課題へ多少の影響を与えたとはいえ、多くの注目するべき成果により、この分野の研究の面白さと重要性を十分に知らしめた功績は大きい。今後、GBPをモデルペプチドとした有用活性物質の探索が期待される。

(2)「ヒト細胞に活性を示す昆虫成長因子の構造改変と新薬開発」
(富山医科薬科大学薬学部 河野敬一)

GBPの大量発現系として大腸菌利用の系、さらに酵母を利用したより効率のよい発現系開発のみならず、構造改変GBPならびに同位体標識ペプチドの調整により、中課題(1)との連携による細胞増殖作用と血球活性化作用を示すGBPの最小構造が異なること、構造改変GBPの構造活性相関解析からGBP作用機構モデルを構築したことなど、細胞成長因子の一次構造・立体構造と活性発現の様相を鮮やかに解明したところは大いに評価される。一方、中課題名にもある新薬開発に関してはその可能性を示唆する結果を得るにとどまったとはいえ、将来への期待を大きくさせる成果がみられたといえよう。GBPなど細胞成長因子の構造生物学を一段と精緻なものにすることが期待される。

(3)「昆虫成長因子の機能と情報伝達機構の解明」
((独)農業生物資源研究所 神村 学)

カイコという優れた研究材料を得て、カイコBmPPの機能を詳細に解析したこと、特にこの機能がカイコ幼虫期における生体防御反応と関連していることを示したこと、またBmPP遺伝子の転写・翻訳制御機構の解析から、BmPPの2種類のmRNAの1つがポリシストロニック mRNAであることを明らかにしたことなど、この分野の基礎研究の展開に大きな可能性を示したことは評価するべきである。GBPで得られた成果をカイコに応用し、トランスジェネシスなどを活用すれば、さまざまな有用活性物質の基礎ならびに応用生物学が展開できるだろう。カイコをめぐる知見の蓄積を最大限に活用しつつ今後の研究を展開することが期待される。