生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 事後評価結果

肥満・脂肪代謝制御の分子機構と食品中の活性化因子に関する研究

(北海道大学大学院獣医学研究科 斉藤 昌之)

評価結果概要

全体評価

肥満に直接関与する2種類の分子、すなわち熱産生によってエネルギー消費量を増やすミトコンドリア脱共役タンパク質UCPと体脂肪を蓄積する脂肪細胞の増殖分化・アポトーシスを制御する核内レセプターPPARをターゲットとして研究が行われ、いくつかの成果が得られた。
すなわち、脂肪細胞分化における核内レセプター PPARγ と転写共役因子の重要性を証明し、両者を組み合わせて PPAR リガンドの大規模スクリーニング系を確立した。また、褐色脂肪や骨格筋細胞で、UCP1, UCP2, UCP3 遺伝子発現におけるアドレナリン・レセプターと核内レセプターの役割を明らかにし、これを利用したスクリーニング系を確立した。
これらの成果の中で、肥満に直接向き合うという点では、UCPに関する成果が高く評価される。それに対して脂肪細胞の研究がライフサイクルの変化に集中したことは肥満問題の解決には直接はつながらないと判定される。現在、肥満は成熟型脂肪細胞が重要な鍵を握っており、このステージになんら触れていない点は評価を下げざるをえない。
本研究は4つの中課題から成るが、課題ごとにその進捗状況に大きな差があり、全体としてまとまりに欠ける点が問題である。また最終目的であるプライマリーケア食品開発への手がかりを得るための十分な成果を得ているとは言えない。

中課題別評価

(1)「エネルギ-消費分子脱共役タンパク質の制御機構と食品中の活性化因子に関する研究」
(北海道大学大学院獣医学研究科 斉藤昌之)

p53欠損マウスから褐色細胞株HB2を樹立し、UCP1遺伝子発現におけるβ3アドレナリンレセプターと核内レセプター( PPAR, RXR )の役割を明らかにし、UCP1を指標とするスクリーニング系を確立した。また、骨格筋細胞のUCP2, UCP3の遺伝子発現調節機構にβ2アドレナリンレセプターと核内レセプターの関与を明らかにした業績は高く評価される。
  UCP1遺伝子のノックアウトマウスを用いて、抗肥満効果にはUCP1によるエネルギー散逸が必須であることを示した。UCP2, UCP3の誘導はPPARδを介して起こることから、リガンドである長鎖脂肪酸がUCPを誘導するという興味深い成果が示された。
本中課題の成果は、4つの中課題の中で最も高く評価できる。

(2)「脂肪細胞のライフサイクルを支配する分子機構の解明とその制御法の開発」
(京都大学大学院農学研究科 河田照雄)

  脂肪細胞の分化に、核内レセプターPPARγ、そのリガンド、転写共役因子が決定的な役割を果たしていることを新しい手法で明らかにし、ヒトPPARγに対するリガンドの大規模スクリーニングレポーターアッセイ系を確立した点は評価できる。
  この種の研究は1996年頃から他のグループによっていろいろ行われでおり、国際的には、PPARに関する研究の進歩は著しく、オリジナリティーの点で、本課題の成果が世界をリ-ドするものとは言い難い。また、本プロジェクトの主要な目標である抗肥満の見地からも高い評価は困難である。
一方、イソプレノールやアビエチン酸が、動脈硬化や高脂血症などの改善にも有効である可能性を示したことは、想定外の研究成果であり、興味深い。

(3)「食品由来脂肪酸の生体内代謝とアラキドン酸カスケ-ドを介した脂肪細胞制御に関する研究」
(島根大学生物資源科学部 横田一成)

脂肪細胞の分化過程で、プロスタグランジン合成パターンが変化し、成熟するとPGD2やPGJ2誘導体の生成が増加することを見出し、PGがPPARの内因性リガンドとなることを明らかにした。また、アポトーシスに対するアラキドン酸代謝物の役割を示したたことは評価できるが、抗肥満につながるような研究成果は得られていない。

(4)「食品素材中の脂肪酸関連有効成分の検索とその食品化学的特性に関する研究」
(北海道大学大学院水産科学研究科 宮下和夫)

抗肥満効果の高い魚油(低温抽出イワシ油)や副作用の少ない共役リノレン酸異性体(ニガウリ種子油)などの大量調製法、安定化法を検討し、それらを他の研究グル-プに提供して研究の進展に貢献するなど課題の中で一定の役割を果たした。また、共役リノール酸、魚油、海草フコキサンチンなどの生理作用効果が調べられたが、抗肥満と食用油の関連についてのデ-タは十分とはいえず、研究課題を広げすぎた印象を受ける。