生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 事後評価結果

広範な特性の米及び変異米の食味特性の解明及び新評価技術

((独)食品総合研究所 大坪 研一)

評価結果概要

全体評価

世界の広範な特性の米及び突然変異米を試料とし、米の食味評価に有効な各種突然変異系統の作出とその詳細な遺伝解析、および米の食味の物理化学的特性の解明とそれら要因の総合化による食味総合評価技術の開発を行った。米の食味は「アミロース含量とタンパク質含量で決定される」というセントラルドグマに挑戦すべく、澱粉及びタンパク質に関する多くの変異体が開発され、食味との関連が調べられた。主な成果のうち、澱粉合成に関連する酵素類やグルテリン、プロラミン等のタンパク質が米の新しい食味要因の1つであることが示されたことは高く評価される。米の外観、香り、味、硬さ、粘りなどに関して、官能検査に匹敵する物理化学的多面評価法を確立したことは、嗜好性の影響を避けることができるという点で評価できる。
近年、食品表示の信頼性の確保が求められるようになっており、本研究の成果である品種判別技術と食味評価技術は、実用面からも評価に値する。本研究は、食総研グループおよび九大グループがそれぞれの研究蓄積の上に立ち、かつそのノウハウを生かしながら共同で開発研究を行った理想的な共同研究の事例として高く評価される。

中課題別評価

(1)「米の食味特性の解明及び新評価技術の開発」
((独)食品総合研究所 大坪 研一)

世界各国より収集した試料米及び九州大学で作出した各種変異体を試料とし、米飯物理特性の評価、呈味性成分の分析及び新評価手法の開発、米粒微細構造評価技術の開発、米食味関連DNAマーカーの開発とそれらに基づく食味推定技術の開発、米粒半粒を試料とする良食味米選抜技術の開発を行った。その結果、米の外観特性、米飯物性、呈味性等、食味関連特性を多面的に評価し、試料米の物理化学的特性を明らかにした。低真空SEM画像及び実体顕微鏡画像を混合画像化することにより、米粒の微細構造やタンパク質顆粒の集積状況を観察する技術を開発した。澱粉枝切り酵素やグルテリン等、新たに見いだした食味要因に関係するDNAマーカーを作出し、インド型米と日本型米の識別技術とDNA食味判別技術を開発し、半粒試料による良食味系統選抜技術を提案した。以上のように、米の食味評価を多面的に発展させたことは高く評価される。

(2)「イネ種子貯蔵成分に関する遺伝子新素材の開発と特性評価」
(九州大学大学院農学研究院 佐藤 光)

世界各国の米及び独自に開発した受精卵処理法を用いて作出した各種の変異体を飼料とし、MNU受精卵処理後代及び在来品種中の貯蔵成分に関する変異の探索、貯蔵成分に関する変異体の遺伝様式の解明、生理・生化学的特性の解析、貯蔵成分に関する遺伝子の単離と同定を行った。その結果、新たに貯蔵澱粉及び貯蔵タンパク質に関する変異体1206系統と168系統を作出し、澱粉合成酵素、同枝作り酵素、同枝切り酵素等の澱粉合成関連酵素変異体を単離・同定したことは、高く評価される。アミロースが共通で、アミロペクチンがインド型あるいは日本型の変異系統を作出し、それらの澱粉特性を比較することによって、アミロペクチンの澱粉特性に与える影響を明らかにした。これらは、突然変異の研究利用の成功例として高く評価される。