生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 事後評価結果

遺伝子導入飼料作物を用いた新しい家畜疾病予防法の開発

(東京大学大学院農学生命科学研究科 松本 安喜)

評価結果概要

全体評価

有効なアジュバントの開発、経口免疫方法の開発、植物でのワクチン生産のいずれも、ワクチン技術の領域に大きく貢献する課題であるため、国際的に激しい競争が行われているものの、世界的にみて実用レベルに達しているものはほとんどない。そのような大きな課題にまとめて取り組んだ意欲は評価でき、ブタ回虫感染防御遺伝子を種子植物に導入・発現に成功しコレラ毒素との混合投与で感染防御効果を確認、蚊媒介性の病原体に対して粘膜免疫で感染防御を誘導、コレラ毒素とワクチン抗原を高効率に融合するヘテロ型5量体融合ワクチンを開発、ブタ回虫感染防御遺伝子を単離・同定し鼻腔への粘膜免疫で防御効果を確認、等の成果は得られているが、未だ基礎的試験の段階にとどまっており、断片的な成果となっている。
今後、さらにブタ等での実証試験を含む実用化に向けた技術開発や、安全性の試験さらにマラリアや日本脳炎などの社会的にインパクトの高い感染症での遺伝子組換え作物の開発に取り組む必要がある。

 中課題別評価

(1)「遺伝子導入飼料作物の作成およびサイトカイン導入効果の検討」
(東京大学大学院農学生命科学研究科 松本 安喜)

後半の2年間に焦点を絞り込み、研究を加速させることによって、コレラ毒素B鎖遺伝子に融合したブタ回虫感染防御抗原As14やAs16をイネ種子中に蓄積させた形質転換イネの作成に成功し、このイネ種子をコレラ毒素と混ぜてマウスへ経口投与することで、経鼻免疫で得られた結果と同様に、回虫の感染を阻害できたことは評価できる。今後、遺伝子の発現レベルを高めるような工夫をして、高発現させるシステムを開発し、単体でも感染防御効果のある実用的な組換え体を開発することが望まれる。

(2)「液性免疫活性化を促すコレラ毒素A/B鎖遺伝子と家畜病原体感染防御遺伝子の融合遺伝子作成およびその組換え植物による翻訳産物の生化学的・免疫学的解析」
(琉球大学遺伝子実験センター 新川 武)

コレラ毒素フラグメントのアジュバントや粘膜運搬体としての利用について、プロジェクト全期間を通じて充分検討を行ってきた。高分子の抗原に対して、ヘテロ型5量体融合ワクチンの開発など新しい粘膜アジュバントとしての利用法が提言された。コレラ毒素B鎖遺伝子を利用し、経鼻免疫で日本脳炎やマラリアなどの感染症を効率的に防御できることを示した点は大きな成果である。今後、"食べるワクチン"としてマラリアや日本脳炎などの社会的にインパクトのある感染症に対して有効な遺伝子組換え飼料作物の開発に期待したい。

(3)「家畜感染症防御抗原の探索および遺伝子導入飼料作物を用いた家畜疾病予防法の宿主動物を用いた効果検定」
((独)農業・生物系特定産業技術研究機構 動物衛生研究所 辻 尚利)

ブタ回虫から感染防御免疫を誘導する新規のAs14やAs16抗原を見出し、これらの抗原がブタを用いた経鼻免疫で回虫の感染を防御できることをサイトカインやIgA、IgG、IgEなどの生化学レベルからも明確に同定したことは充分評価できる成果である。またこのグループでは、回虫の変態に必須なタンパク質無機リン酸ピロフォスファターゼの存在を明らかにし、それを大腸菌で組み換えたワクチンを利用して、経鼻免疫で回虫の感染を防御できることを示した。今後効果の判定等更なる発展を期待したい。