生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2004年度 事後評価結果

植物ホルモン情報伝達の分子機構解明による植物機能改変「形態形成の人為的コントロールを目指して」

((独)農業生物資源研究所 小松節子)

■評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、従来育種では困難であった「短桿、直立葉、少数桿、穂重型」という健全次世代型多収性イネの分子育種を可能にするため、草型形質に関わりの強いジベレリン(GA)、ブラシノステロイド(BR)を対象に、これら植物ホルモンがどのように合成・受容・伝達され、機能発現に至るかを、分子生物学的、タンパク質化学的手法等を用いて解明しようとしたものである。その結果、GAの情報伝達系において重要な役割を果たすGID1、GID2、SLR1遺伝子を単離し、それらの機能を明らかにしたこと、BRの生合成や受容にかかわるD61、BRD1、D2遺伝子を単離したこと、さらにGAの情報伝達系においてカルシウムを介するリン酸化が、イネの茎葉伸長・根の成長に重要であることを明らかにした点は、高く評価される。
また、得られた結果が原著論文あるいは総説として多くの優良なジャーナルに発表され、植物科学の分野に多くの影響を与えたことは高く評価したい。本研究の最終目的は理想的な草型で、健全な、食味良好な多収性イネの作出である。この点に関しては残念ながら達成されていないが、21世紀の新たな価値体系に基づいた育種目標に立ち向かう時代にあって、周辺研究分野をも組み入れた画期的進展に向け、機を得た研究成果であると高く評価出来る。

(2)中課題別評価

中課題A「イネの草型を制御する植物ホルモン情報伝達の分子機構解明と育種への応用」
((独)農業生物資源研究所 小松節子)

5年間の研究を通じて、GA、BRの下流で変動する遺伝子・タンパク質群を解析し、カルシウムを介するリン酸化が、イネの茎葉伸長・根の成長に重要であることを明らかにしている。また、中課題2で単離されたGA2酸化酵素遺伝子や改変型ブラシノライド受容体遺伝子を導入した形質転換イネの作出に当たり、節間特異的発現プロモーターの単離や特許回避・遺伝子組換え体の社会的受容のためのベクターの構築を図ったこと、さらに、形質転換イネの環境への安全性評価を行ったことは、今後の遺伝子組換え技術の展開に向けて重要と考えられる。特許ならびに原著論文、総説などとしてインパクトの高い情報を多く発信したことは評価される。

中課題B「イネ矮化遺伝子の単離と機能解析及び草型育種への応用」
(名古屋大学大学院生命農学研究科 北野英己)

5カ年の研究により、多数のGA、BR関連の変異体を選抜し、その中から、GAの情報伝達系において重要な役割を果たすGID1、GID2、SLR1遺伝子を単離し、それらの機能を明らかにしたこと、BRの生合成や受容にかかわるD61、BRD1、D2遺伝子を単離したことは、科学的価値が高い。さらに、緑の革命に貢献したイネの短桿性がGA2酸化酵素をコードしていることを明らかにすると共に、我が国の半矮性在来品種の原因遺伝子を特定した。これらの成果は、短桿、直立葉というイネの理想的草型に向けた今後の分子育種の展開を図る上で評価される。2件の特許をはじめ、多数の著名なジャーナルに公表されていることは評価される。