生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2004年度 事後評価結果

ダイオキシン類の微生物分解系を用いた環境修復のための基盤研究

(芝浦工業大学大学院工学研究科 大森 俊雄)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、細菌のダイオキシン分解酵素の機能解明と改良型酵素の創製、自然界でのダイオキシン分解系遺伝子の伝播の機構解明を行い、分解力増強への応用を図るための基礎研究を行った。難分解性のダイオキシン等を分解する微生物の自然界からの分離同定、分解系の各酵素の遺伝子のクローニング、酵素の精製結晶化とX線解析、分解系遺伝子群のプラスミドとトランポゾンによる水平伝達の証明など、広い範囲に渡って総合的に行われた基盤研究の成果は高く評価される。また、遺伝子の塩基配列によるタンパク質の1次構造から3次構造を推定するab initio法の新たなる開発と立体構造推定プログラムの自動化が達成されたことは、今後の基礎的なタンパク質科学への貢献と産業への波及効果は大きい。ダイオキシン分解酵素系の各酵素の改変強化に関しては、その可能性を示唆するデータを得るにとどまった。以上のように、幾つかの未達成の課題は残されているものの、おおむね当初計画に沿ったレベルの高い研究成果を上げている。情報発信についても、レベルの高い報文として順調に成果公表が行われており、十分に評価される。研究体制は、中課題間の連携が良好であり、かつ代表者の強い指導性に基づく適切な研究運営体制があったものと判断される。本研究の成果は、将来的に農業環境を含む環境中のダイオキシン汚染へのバイオレメディエーション適用をめざす環境ビジネスへの波及効果が期待される。

(2)中課題別評価

中課題A「ダイオキシン・ジベンゾフラン分解系酵素群の機能構造解析と遺伝子伝播機構の解明」
(東京大学生物生産工学研究センター 野尻 秀昭)

ダイオキシン分解酵素系、特に初発酸化酵素について、X線結晶解析による立体構造の解明やその構造-機能の相関の解明、ダイオキシン遺伝子群の自然界での水平伝播、多様性、進化の機構の解明を行った。分解酵素系の機能構造解析については、カルバゾール(CAR)分解酵素系のうち4種の酵素のX線結晶解析に成功したこと、初発酸化酵素CARDOの基質認識機構と電子伝達様式を解明したこと、分解系遺伝子群をのせているpCAR1、pCAR3などの伝達性巨大プラスミドの全塩基配列と遺伝子構造を解明したことは、大きな科学的成果である。また、遺伝子水平伝達の科学的な基礎を本中課題で証明したことも、大きな成果である。構造解析に至らなかった酵素があるなど未達成の部分が残っているものの、本中課題は、ほぼ十分な成果をあげた。情報発信については、当該分野においてレベルの高い学術雑誌に比較的順調に成果公表をしている。

中課題B「ダイオキシン分解系酵素の改変体の作成と機能解析」
(芝浦工業大学大学院工学研究科 大森 俊雄)

ダイオキシン分解酵素系の改変体の機能解析を目標として、初発酸化酵素システムの最終酸化酵素への基質のドッキングシミュレーション、その活性予測、構造予測を通して、改変体酵素の構造・機能解析を行った。ダイオキシン分解系初発酸化酵素(CarAa)とdibenzo-p-dioxin(DD)のドッキングシミュレーションから基質特異性と反応性に影響する残基を推定し、これらのアミノ酸を改変した酵素の性質をしらべて、反応機構を解明したことは、本中課題の大きな成果である。また、I262Vなどの変異体酵素は、CARに対する初発酸化活性がaxial dioxygenationからlateral dioxygenationに変わることを発見し、その理由を酵素・基質ドッキングシミュレーションによって解明したことは、大きな科学的成果である。高分解性改変体の作製には至っていないが、当初の計画を満足できる成果を達成している。情報発信が少ないものの、レベルの高い報文を公表できる成果を上げており、インパクトファクターの高い雑誌に公表することが重要である。

中課題C「コプラナーポリ塩化ビフェニル分解への応用を目指したクメン分解酵素群の機能構造解析とダイオキシン類分解系酵素の分子モデリング」
(東京大学大学院農学生命科学研究科 若木 高善)

クメン分解系酵素群のX線結晶構造解析を行うこと、得られた酵素の構造に基づいた機能解析を行うこと、改変体を作製してより広い基質特異性を獲得することを目的とした。タンパク質のアミノ酸1次配列から立体構造を推定するab initio法の1つとして、フラグメントアセンブリ方式のプログラムを開発し、ホモロジーモデリング法とドッキングさせて、立体構造推定プログラムを自動化したことは、大きな成果である。立体構造及び機能解析の成果に分子モデリングを融合させ、レベルの高い独創的な研究成果を引き出しており、インパクトは大きい。クメン分解酵素系6種のタンパク質のX線結晶解析による立体構造の解明については、4種の酵素については構造決定に成功した。高い活性を有する改良型の酵素を作製できたが、目的とする改変体酵素は得ることが出来なかった。本中課題全体としては、基礎的に十分な成果を上げており高く評価される。本中課題の成果は、分解酵素機能の解明と改変酵素設計への分子モデリング利用の有効性を大いに印象づけており、酵素の解析や改良が関わる幅広い研究・産業分野への波及効果が期待される。情報発信については、当該分野でレベルの高い学術雑誌に順調に成果が公表されている。