生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2004年度 事後評価結果

マメ科植物等のゲノム分析による根粒形成機構の系統的解明

((独)農業生物資源研究所 川崎信二)

■評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、ミヤコグサとダイズの根粒形成過程やそれに関連する機能を解明するために、両植物の高密度分子地図とゲノムライブラリーとを作製し、これらをもとに変異体の原因遺伝子の単離同定を目指したものであり、マメ科の根粒形成遺伝子群を効率的・系統的に単離する基本的技術が開発された点で高く評価される。根粒菌についても、整列化ゲノムライブラリーが整備され、ミヤコグサ・ダイズ・根粒菌3者のインフラストラクチャ-を整備したことも、今後のマメ科のゲノム研究に貢献するものである。それを応用した遺伝子単離の事例としての根粒形成関連遺伝子の単離、さらにその解析まで行ったのは見事な成果であり、この研究分野におけるインパクトも大きい。
全ゲノムをカバ-する根粒菌の大規模破壊株の作製には至らなかったが、系統的部分ゲノム欠損株の機能分析による根粒形成に必要な菌側での因子群解析では、根粒形成に必須な遺伝子、根粒細胞内への侵入に必要な遺伝子など新規遺伝子を同定した。
本プロジェクトにより、根粒形成に関与する植物側遺伝子群、根粒菌側遺伝子群がある程度明らかになったが、両者のクロスト-クについてまでは解析が進まなかった。
今後さらにマメ科植物と根粒菌の両側から根粒形成の過程を解明することにより得られる成果が、マメ科植物以外にも応用される可能性は否定できないが、産業への波及は直ちに直ぐという性質のものではない。

(2)中課題別評価

中課題A「ミヤコグサのゲノム解析を基にした根粒形成遺伝子群の系統的単離と機能解析」
((独)農業生物資源研究所 川崎信二)

ミヤコグサのゲノムライブラリーの整備、高精度遺伝子地図は、今後のゲノム解析研究に大いに役立つものと思われる。当初の計画であった物理地図の作製に向けた全ライブラリーの整列化には至らなかったことは残念であるが、共生関連遺伝子の単離において、対象遺伝子領域の部分的な整列化に有効活用された。これらの基盤は、今後のゲノム解析と遺伝子単離に大いに活用できるものと考えられるので、意義がある。
また、根粒形成に関与する転写制御因子、および、プラスチド局在性イオンチャンネル遺伝子を単離したことは大きな科学的意義を有するだけでなく、長い目で見た場合に、生物系特定産業への寄与が期待できる。

中課題B「ミヤコグサとダイズのシンテニ-を利用した遺伝子単離システムの開発」
(千葉大学園芸学部 原田 久也)

ミヤコグサ根粒で高発現するクローンをミヤコグサ遺伝子地図およびダイズ遺伝子地図に載せ、比較地図を作製し、ゲノムの一部ではあるが、対応関係を明らかにしたことは、マメ科植物間での進化学的および遺伝学的研究を行う上で興味深い新知見を提供している。すべての領域に亙った解析には至らなかったが、一定の成果として評価できる。両種の関係を論ずるには、更なる解析を待つ必要がある。一方、ミヤコグサの情報を作物であるダイズへ応用しようとする産業上の有効性については、マイクロシンテニーがかなり複雑であるので、現時点では可能性が明らかでない。
ダイズの遺伝子地図は、単一の組合せでは最大級の遺伝子地図であり、BACライブラリーの整備も行われている。これらは、今後ダイズゲノム解析および遺伝子単離研究の基盤材料として、研究・産業両面での活用が期待される。とくに、遺伝子地図は育種への活用可能性があるので、短期的にも有用と思われる。

中課題C「根粒菌ゲノムの機能分析による共生窒素固定関連遺伝子群の系統的単離」
(奈良女子大学理学部 佐伯 和彦)

目標設定に対して達成は十分とは言えず、残念である。ミヤコグサ根粒菌の破壊系統が十分に得られなかったが、遺伝子破壊の方法が適当でなかったと言わざるをえない。2つのミヤコグサ菌変異系統について、原因遺伝子が他の根粒菌の既知遺伝子と同様の機能を持つことが確認されたことは、科学的知見の蓄積としては意味があるが、根粒形成に関与する遺伝子の個別の単離はあちこちで行われており、網羅的な単離を達成できなかった点でインパクトが下がるのは致し方ない。
ミヤコグサ菌の共生関与遺伝子を明らかにするために、ミヤコグサ根粒菌のクローンをインゲンマメ根粒菌に導入したが、中途半端に終っている。
ただ、本プロジェクトで研究の基盤と方向性は固まりつつあるので、これを継続発展させることにより,今後の成果が期待される。