生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2004年度 事後評価結果

ラショナル・プロテイン・デザインおよびセレクション法の確立による「スーパープロテイン」の創出

(東京大学大学院工学系研究科 多比良 和誠)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究では、"ラショナルプロテインデザイン(RPD)&セレクション(RPS)"という独創的な新規のタンパク質改変方法を開発し、"超機能性生体分子である「スーパープロテイン」を創生する"ことを提案書で公約していた。本研究では、以下の各中課題別の評価概要に記したように各種の研究成果が得られている。例えば、4種類以上の新規の機能性タンパク質選択システムが開発された。また、非天然アミノ酸を蛋白質に導入する手法を開発したという点での研究成果は評価できる。しかし、単に非天然アミノ酸を導入するだけで「スーパープロテイン」とはいえず、天然にはない、定性的に全く新しい機能を合理的に導入することができて初めて「スーパー」といえよう。普遍的で、独創的なタンパク質改変方法を開発しようとしたが、対象をほぼキシラナーゼに絞って研究している。このように一つのタンパク質に絞ったにもかかわらず、野生型のキシラナーゼに対して1.3倍の活性向上が認められたにすぎない。本研究の成果の応用的側面は脆弱であり、有用タンパク質の創生という面において、充分な成果が得られたとはいえない。本研究を全体的に見ると、上流域(中課題A)では、目的も明快で、目的にしたがってそれなりの成果を得ているが、下流域にいたるほど、研究目的が不明確になり、成果もインパクトが減弱している。当初から指摘されたところであるが、研究途上でも、明確に解決すべき下流域の研究目的の設定に到らなかった。したがって、下流域の進捗については、当初設定された流路をたどって、目的の河口に達したとは言えない。

(2)中課題別評価

中課題A「「スーパープロテイン」の創出にむけた新機能タンパク質の無細胞系新規選択法の開発と有用タンパク質の創生」
(東京大学大学院工学系研究科 多比良 和誠)

中課題Aでは、4種類以上の新規の機能性タンパク質選択システムを独自に開発した。すなわち、タンパク質とその遺伝情報(mRNA)を結合する手法としてアプタマーを用いる手法、リシンを用いてリボソームを停止させる手法、ポリリボソームをタンパク質-アプタマーの結合で安定化させる手法などを開発した。RPS法に関しては、これらの新規な手法の開発が行われており、実施例の論文発表も盛んにされた点は評価できる。これらのRPS法を用いてキシラナーゼの高活性化を行う予定であったが、キシラナーゼの性質上困難であることが分かったため、酵素活性やタンパク質の修飾などで選択するRPS法の開発を行った。実際に目標としていた糖分解酵素やRNAi関連酵素Dicerでの新規タンパク質の選択には至らなかったが、ガン転移に関連する遺伝子の選択に成功し、これら手法の有用性を示した。しかし、当初の目的であるRPS法およびRPD法を駆使した「スーパープロテイン」創出法を普遍化する、という点については不十分である。

中課B「Rational Protein Selection法による新機能糖結合タンパク質の創出」
(山形大学理学部 長谷川 典巳)

中課題Bでは、野生型キシラナーゼと比較して1.3倍に活性の向上した非天然アミノ酸導入キシラナーゼを創出した。非天然アミノ酸を導入したことに意義は認められるが、実用化という観点からは不十分である。アジ化ナトリウムで活性を自由自在にスイッチでき、しかも反応過程で生成物(天然にない修飾糖)と未反応物を分離できるスーパーキシラナーゼを創出し、この酵素の特長を生かし、そのX線結晶解析からキシラナーゼの酵素反応の全行程の可視化に成功した。

中課題C「スーパープロテイン創出にむけたタンパク質分子のデザインと構造解析」
(独立行政法人食品総合研究所 小林 秀行)

中課題Cでは、非天然アミノ酸の導入法としての4塩基コドン法で、pdCpAの代わりにpAを用いる方法を確立した。これによりGFPに非天然アミノ酸を導入し、長波長側に蛍光波長がシフトするタンパク質を創出するなど、効率的な非天然アミノ酸の導入が可能となった。また、キシラナーゼにおける基質の認識メカニズムを解明し、それを基に行ったRPDをもとにキメラ酵素を調製し、オリゴ糖調製の効率のよい酵素の構築に成功した。しかし、研究初期において目的としていた「アミノ酸側鎖の置換による影響を分子軌道法を用いて解析し」という件については、実施されなかった。