生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2005年度 事後評価結果

ザゼンソウを模倣した温度制御アルゴリズムの開発とその生物系発熱制御デバイスへの応用

(岩手大学農学部付属寒冷バイオシステム研究センター 伊藤 菊一)

総合評価結果

極めて優れている

評価結果概要

総合すると、無謀なほどに意欲的な当初の計画にのっとって、予想以上の成果が得られたと評価できる。一方、一つ一つの問題に十分な検討を与えるための時間をとらず、次に進まざるをえなかったという感も否めない。当面はこの研究にじっくり取り組み、大きな成果を挙げていただくことを強く希望したい。
これまでの研究で、興味深い研究素材/課題が十分に蓄積されている。呼吸基質と脱共役タンパクの種類の問題、アルゴリズムのコンポーネント(とくに温度センサー)特定、5回膜貫通型脱共役タンパクの活性化機構などはその一例である。これらを詳細に研究し、それぞれの分野で古典となるようなフルペーパーを公表してほしい。これまでにも代表者の研究に注目していた研究者は多いと思うが、これまでの研究蓄積のメリットを生かして、世界のトップを守ってほしいと思う。これが成功すれば、現象へのアプローチとしてのシステムバイオロジーの有効性を周知することになる。システムバイオロジーは、モデル生物を用いた精緻な分子生物学的な研究と大きなレベルでの現象とをつなぐアプローチとして期待できる。
非線形時系列解析分野に対しては、生物関連の時系列解析への扱いに高度の実験能力を有した研究者が主導することによって、従来認識されていた以上に、非線形時系列解析諸手法のパワーを引き出すことができることを明瞭に示している。今後、今まで参入していなかった生物系の実験系分野へ非線形時系列解析の導入が加速されると考えられる。非線形時系列解析は非線形力学理論と表裏の関係にあり、実データ解析の成果は純粋科学としての発見のみならず、自動的に工学的な応用へと結びつく可能性が高い。そのような意味から、非線形時系列解析の分野に限定しても、本研究の科学技術に与える影響は極めて大きいことが明らかである。
生物学的に興味深い現象に注目し、植物生理学・生化学・分子生物学など分野の最新の技術を駆使した実験および数学や情報科学のアプローチを組み合わせて、観察や実験データに基づいて仮説を立て、その仮説を実験で実証しつつ、さらに仮説を改良していく攻め方は、これからの生物学におけるドライ(インシリコバイオロジー)→ウエット(実験)→ドライという融合的サイクル的アプローチの有効性を実証したと言えよう。論文発表のみでなく、知的所有権への配慮もなされ、しかも単に特許出願にとどまらずに実際に事業化も自分自身で展開していることは、若手研究者としては特に高く評価できる。
産業への波及に関しては2点考えられよう。温度制御アルゴリズムが従来のものよりも安価で優秀なものであれば、各種の温度制御に用いられるようになるだろう。報告書によれば、既に企業からも引き合いがあるとのことであり、期待できよう。もう一点は、ザゼンソウの5回膜貫通型脱共役タンパクの利用である。寒冷地の植物の発熱にとどまらず、ヒトも含む動物への導入なども可能であろう。