生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2005年度 事後評価結果

非メチオニン型翻訳開始機構の解析とその利用方法の開発

((独)農業生物資源研究所 中島 信彦)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

本研究は、チャバネアオカメムシ腸管ウイルス(PSIV)の外皮タンパク質遺伝子において発見したIGR-IRESを介した非メチオニン型翻訳開始機構を解明することにより、任意の外来遺伝子を任意のアミノ酸から高効率に翻訳するための技術を開発することである。本研究は課題(1)~(4)からなり、それぞれ以下の成果を得た。
(1)IGR-IRESの高次構造の解析:IGR-IRESの二次構造を決定し、40Sリボソームが結合するIGR-IRESの塩基配列や、リボソームが結合するために必須なIGR-IRESのシュートノットなどを同定した。(2)タンパク性結合因子の解析:IGR-IRESがdomain 2を介して40SリボソームのS25タンパク質と結合することを明らかにした。(3)非メチオニン型の翻訳開始の検索:IGR-IRES構造はPSIV型遺伝子構造を持つウイルスに特異的な現象であることも明らかにした。これらの成果は、ウイルスタンパク質の特殊な翻訳開始機構についての理解を深めたのみならず、生命の進化に大きく貢献した翻訳系の誕生と進化を語るうえでも重要な意味をもつものであり、科学的価値はきわめて高い。(4)IRG-IRES利用法の開発:IGR-IRESを介した翻訳により、任意のアミノ酸をN末端にもつ任意のタンパク質の合成が可能であることを見出したことも大きな成果である。また、IGR-IRESを介した翻訳はウイルス由来の特殊な因子を必要としないことも明らかにした。これらの発見により、任意のアミノ酸をN末端にもつタンパク質の高効率発現系の開発が可能であることを指摘した。今後、精製酵素などを利用した無細胞系のタンパク合成系が確立すれば、その系の中に本研究で得られた成果を組み込むことで、利用価値は高くなると期待される。研究遂行に大変な困難がともなうことも予想されるが、そこで得られる研究成果は、応用的に非常に重要であるのみならず、基礎科学としてもきわめて価値の高いものである。