生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2005年度 事後評価結果

微生物による昆虫の生殖操作機構の解明と利用

((独)産業技術総合研究所 深津 武馬)

総合評価結果

やや不十分

評価結果概要

本研究は、ショウジョウバエ及び内部共生細菌であるスピロプラズマをモデル系として、「雄殺し」や「細胞質不和合」等生殖操作の標的となる分子機構に関与する遺伝子を同定し、さらにはこれら遺伝子を改変・操作することによって、宿主昆虫の生殖表現型を自由に操作できる系を確立することを目的とした。
中間評価までに、多数のショウジョウバエ突然変異系統を作成するとともにスクリーニングに取り組んだが、本研究全体の前提となる「スピロプラズマが共生していながら雄殺しを起こさない」系統の取得には至らなかった。このため当初の計画を見直して、「雄殺し」を誘導するスピロプラズマ (NSRO) 及び(NSRO)から単離された「雄殺し」を誘導出来ない変異株 (NSRO-A)のゲノム解析を行ったが、試料の調整に問題がありゲノム解析は未完成となっている。
一方で、昆虫類と共生細菌の関係について、いくつかの新たな知見を得た。即ち、NSROとNSRO-A は、宿主内での増殖行動が異なることを明らかにし、共生細菌の感染密度と生殖操作表現強度に関する「閾値密度仮説」を提唱するとともに、昆虫免疫の領域に関して、何らかの要因で免疫系が作動すると共生菌であっても異物として認識され排除されうる現象を見出し、さらには本プロジェクトの直接的な目的には沿わないが、アズキゾウムシに共生するボルバキアの遺伝子断片が宿主のX染色体に水平移転していることを発見した。
研究期間内に提示した目標をどの程度達成したかという観点からは低い評価とならざるを得ないが、残された興味深い問題については更なる研究を期待したい。