生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2005年度 事後評価結果

家畜とヒトの炎症性腸疾患の発生機序と関連性の解明

((独)農業・生物系特定産業技術研究機構 動物衛生研究所 百渓 英一)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

(1)全体評価

家畜の消耗性疾病のなかで、最も問題となっているのが牛のヨーネ病である。本病は、抗酸菌の一種であるヨーネ菌に起因する法定伝染病である。本病は、慢性の下痢を起こし伝染力が強く、年間700頭以上もの発生がある。ヨーネ病と同じ肉芽腫性腸炎であるヒトのクローン病があるが、本病は原因不明の難治性疾病であり、牛のヨーネ病との関係を指摘した論文も多い。そこで本研究は牛のヨーネ病と人のクローン病の病態を解明して炎症性腸炎発生機構の全体像を明らかにしようとしたものである。
成果のうち免疫パラメーターを利用した早期診断法の開発は、今後のヨーネ病の摘発に有用はツールとなり高く評価される。またヨーネ菌侵入後のM 細胞の取り込み制御を明らかにしヨーネ病病態の一端が明らかとなった。一方、モデル動物を用いて、消化管蠕動運動の生理、病態生理機構についてはかなり明らかとなった。
しかし人クローン病と家畜の炎症性腸疾患における消化器運動機能障害機構の関連性ならびにそれらの解明については不充分であった。両者に共通な下痢の発生機構について筋層間神経叢、常在型マクロファージ、カハール介在細胞の相互作用を病態モデル動物で解析した部分的な成果は認めるが、病態における両者の異同についてあまり進展が得られなかった。これは両グループの連携の不備によるものであろう。分子生物学からのアプローチについても、色々試みていたがゲノム創薬として現場にフィードバックできる可能性のあるものは見出されていない。

(2)中課題別評価

中課題A「ウシヨーネ病とヒトの炎症性腸疾患における粘膜環境維持機構の解明」
((独)農業・生物系特定産業技術研究機構 動物衛生研究所 百渓英一)

まず成果としてヨーネ菌のM細胞侵入後の動態としてドーム上皮直下のマクロファージ内にのみ認められることを明らかにした。これはヨーネ病で特徴的な免疫誘導の遅れやTh1型反応の低下と関連している可能性がある。人のクローン病では病因が不明なため、病態モデル動物を用いているがモデル動物でのヨーネ菌抗原と病態解明は不十分であった。ヨーネ病疾患のサイトカイン反応を利用した早期診断法としてIL-10抑制、インターフェロンγELISA法を開発したが、これは高感度でありヨーネ菌感染牛の早期摘発に威力を発揮するものと、高く評価される。牛の神経ペプチドの一種、ウロコルチンをクローニングし、検出系を確立して、新たな診断法を提供したことも評価される。しかし菌側からのアプローチならびに人クローン病との病態の異同についてはあまり進展がみられなかった。

中課題B「ヒトクローン病と家畜の炎症性腸疾患における消化管運動機能障害機構の解明」
(東京大学大学院農学生命科学研究科 尾崎 博)

消化管の筋層内常在型マクロファージの生物性状の一端を明らかにしたが、病態時における動態、腸炎におけるマクロファージの役割解明は不十分であった。薬物誘発性腸炎モデルや自然発症腸炎モデルでの常在型マクロファージの関わりについてはそのサイトカイン産生とその平滑筋への作用など一定の成果が上がっているが、ヨーネ病とクローン病での下痢の発生機序については、あまり解明が進展しなかった。今後、モデル動物で得られた成果を自然発症の牛(ヨーネ病)や人(クローン病)で検証し、さらに発展させてほしい。