生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2005年度 事後評価結果

ナノプローブによる生物機能のナノ領域でのアクティブ計測

(東京大学大学院情報理工学系研究科 下山 勲)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

(1)全体評価

近年、微細加工の最先端はマイクロからナノの領域に達してきており、この流れの中で、従来は不可能と考えられていた微小領域の計測が可能になりつつある。一方、生物分野においては、バイオテクノロジーの進展に伴って、生体の細胞内の多様な情報をナノレベルで分解して計測できる技術の開発が求められてきている。本研究は、工学と生物学の二つの分野の研究チームが連携・協力して、生体に対して低侵襲でかつアクティブな刺激機能をもったナノプローブを試作し、信号の発生源に微小プローブを近づけることによって従来手法より微小な刺激応答信号を精度良く計測することを目的とした。
工学系の下山グループは、ナノプローブを構成するナノリード、ナノインジェクション、レーザナノスコープの個別要素について研究を進め、最終的に統合を行うことを計画した。生物系の神崎グループは、生体組織のナノ領域における生物機能計測に関する基礎研究と、ナノプロービングシステムの評価について研究を進めた。本研究の下山グループの開発試作と、神崎グループのその生体への適用との間には、密接な相互フィードバックがあり、課題相互間の連携は非常に有効に機能し、多くの優れた研究成果を上げることができた。全体として研究目標を予想以上に達成していると評価できる。本研究成果の適用範囲は、神経生物学、発生生物学、分子生物学などの生物学や生理学の基礎研究のみならず、医療や農林水産業・食品産業で細胞を主な対象とする分野において潜在的な需要を持つであろう。

(2)中課題別評価

中課題A「ナノプロービングシステムの研究」
(東京大学大学院情報理工学系研究科 下山 勲)

本研究は、細胞内の生体情報をナノレベルで、しかもリアルタイム、多点同時計測ができる多様な計測機能を持った計測システムの開発を目的としている。
本研究で開発されたのは、生体電気現象記録ナノリード、MEMS微小電極、微量投与用のナノインジェクション、微小領域での測光用ナノスコープ、そしてそれらを生体内に設置し操作するための微小位置決めシステムなどである。MEMS技術を駆使した組織・細胞内に刺入するプローブは、高い空間分解能と時間分解能を持ち、その高機能化、多機能化は、極めて優れた水準にあり、局所領域の今までにない計測を可能にする点で生物学者などに強いインパクトを持つ。全ての機能を統合したプローブの開発は現在においても高い目標設定であり、技術的に難しい部分が多々あるが、現在持ちうる最先端の技術を駆使しそれぞれの機能について現状で新しい計測ができるプローブとそのシステムとして評価できるものを開発している。最終的に作成されたプロービングシステムは、非常に広い潜在的需要に見合うものになると期待され、極めて顕著な成果が今後も期待できる優れた研究と判断される。

中課題B「ナノプローブによる生物機能計測」
(東京大学大学院情報理工学系研究科 神崎 亮平)

本研究は、中課題Aで開発されるナノプロービングシステムの動作特性・機能などについて実施適用による評価を行うことと、生体微小領域における生物機能計測に関する基礎的研究を行うことを目的としている。
中課題Aで試作されたナノリード、MEMS微小電極、ナノインジェクション、ナノスコープなどについて、テストするに相応しいカイコガの脳・神経系やアメフラシの細胞などに適用して実践の場の視点から評価し、その結果を的確にフィードバックした。この評価技術は、それ自体で一般の生物学的研究に応用可能なものであるが、本プロジェクトのナノプローブの開発に大きな貢献をした。また、生体微小領域における生物機能計測に関する基礎的研究については、細胞・生体へのMEMS微小電極やナノプロービングシステムの適用例のほか、カイコガの神経細胞培養法、単一細胞でのCCDイメージング法、プローブの位置測定、イオン濃度計測等、ナノプロービングシステムに関連した多くの新しい実験技法例などの優れた成果が得られており、初期の目標を上回る達成状況であると評価できる。