生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 事後評価結果

花芽分化誘導における光周性過程から統御過程への新規な遺伝子ネットワークの解明

(東京大学大学院理学系研究科 米田 好文)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

(1) 全体計画

光によって開花を誘導する物質としてフロリゲンが葉で作られ茎頂に運ばれて花芽分化誘導を行うことが古くから言われてきたが、その実体は明らかではなかった。今回、シロイヌナズナを用いた研究からその実体がFT遺伝子の産物であるらしいことが明らかにされた。その科学的意義は大きく、今後園芸植物で同様の機構を解明することにより、人為的な開花調節が可能になることが期待される。イネ、アサガオの研究からは各植物特有の花芽分化誘導機構が存在することも明らかにされており、今後の研究が待たれる。光周性とともに概日時計の関与も重要であるが、この点での解明はまだ不十分である。花芽分化誘導のパスウエイについての統合的な理解が非常に深まったかどうかについては疑問が残る。
将来的には園芸植物への応用が期待できるものの、今すぐに農林業へ寄与することは期待できず、知的所有権の観点からも特許化されていないのは問題である。総合的には科学的評価は高いものの、実際の産業面への寄与について一層の配慮がなされるべきであった。終わってみると、4研究期間に所属する5研究グループが一緒に研究したメリットがあったと言えるかどうかもやや疑問である。

(2) 中課題別評価

中課題A 「シロイヌナズナ花芽分化誘導統御遺伝子ネットワークの解明」
(東京大学大学院理学系研究科 米田 好文)

HD-GL2型遺伝子PDF2過剰発現体の花芽分化誘導遅延表現型を解析し、この遺伝子がFTより上流で機能していることを示した。また、cDNAライブラリーによる相互タンパク質の検索を行い、PDF2と相互作用するタンパク質を単離している。以上の成果は見られるが、突然変異体の単離は不十分であり、課題が達成されたとは必ずしもいえない。シロイヌナズナという実験上容易な植物を扱っているのでより迅速な成果が求められよう。研究代表者としては成果の点では物足りない点が残るが、他のグループがイネ、アサガオ、アラビドプシスという長日、短日の違いや分類学上離れた植物を用いて、それぞれ特有の機構を調べて成果を出しているので、指導者としての役割は一応果たしているものと思われる。

中課題B「光シグナルによる花芽分化誘導調節の分子機構の解明」
(独立行政法人農業生物資源研究所 井澤 毅)

イネという短日植物をアラビドプシスと比較することにより、長日・短日植物に異なる花芽分化誘導機構が存在することを明らかにしたことは評価できる。Hd1/Hd3aの経路において昼間にHD3a mRNAが蓄積するので、夕方に蓄積するFTとは異なることや、HD1が短日で促進因子、長日で抑制因子となり、日長条件で機能が逆転すること、光受容体フィトクロム信号伝達系がイネでは強い抑制経路を構成することを見出したことはイネを材料とした研究の成果である。イネ特異的開花関連遺伝子Ehd1を単離し、二成分信号伝達系で働くB-RRと同定した事実は本質をとらえていると判断できる。B-RRを駆動する側の実体が何であるかを明らかにすることにより、全く新しい制御系を見いだして行けるだろう。イネ独自の機構解明を更に進め、早期に応用されるのを期待したい。

中課題C「花芽分化誘導を制御する新規の制御因子と制御階層の解明」
(京都大学大学院生命科学研究科 安部 光知(~18.8) 荒木 崇(18.9~))

長年来、開花ホルモンとして知られているがその実体が不明であったフロリゲンについて、その実体がFT遺伝子産物であるということを解明したことは、同じ時期に発表した他の2グループとともに高く評価できる。また、FT遺伝子の相同遺伝子TSFがFT遺伝子と同様に長距離花成シグナルとして働く可能性を示したことも評価できる。この研究グループではフロリゲン本体がFTタンパク質であることを主張しているが、他のグループではフロリゲン様物質はFT mRNAであると主張しており、決着を付ける研究が求められる。今回は他の拮抗するグループとの競争もあり特許化に至らなかったと思われるが、今後重要な遺伝子を単離した場合は速やかに特許化を行い、産業化に寄与されることを期待する。