生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 事後評価結果

ゲノム情報の活用による生活習慣病予防機能を強化した食品素材の創製

(京都大学大学院農学研究科 吉川 正明)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

(1)全体評価

食品に由来する低分子ペプチドが種々の生理機能を発揮することが近年明らかになってきたが、本プロジェクトでは、卵白由来の動脈弛緩・血液加工ペプチドOvokininから誘導した血液降下活性をより向上させたNobokininなど多くのペプチドを対象に、血圧降下、抗脱毛作用、育毛促進、摂食抑制、抗糖尿病、抗肥満など多くの機能を明らかにし、「機能性ペプチド工学」とも言える領域を開拓したことは高く評価できる。外来タンパク質をダイズ種子に高濃度蓄積させるために小胞体ストレスから回避するという戦略を立て、ダイズ子葉小胞体における品質管理機構を明らかにしたことは、今後、多くのタンパク質の植物での生産に繋がる発展性がある。外来タンパク質、ペプチドを大量に蓄積させる宿主としてダイズ種子を選定し、形質転換系を確立したことも、今後の発展性がある。
しかしながら、日本では遺伝子組換え作物に対して消費者の不安感があるため、このままでは、この技術での実用化は困難であると思われる。今後、選抜マーカーフリーなど、社会的コンセンサスの得られる遺伝子導入法などの開発も必要ではないかと思われる。

(2)中課題別評価

中課題A「食品タンパク質に含まれる生理活性ペプチドの探索と機能解析並びにそれに基づいた高機能性タンパク質の設計と安全性の確認」
(京都大学大学院農学研究科 吉川 正明)

本課題は独自の発想のものであり、また研究者の長年にわたる研究の成果の蓄積のうえに行われたもので新しい知見に満ちている。新しい生理機能をもったペプチドの発見は今後のペプチド化学の新しい道を示すものでもある。新規性が高い発見だけに、その作用機構の解明には多くの研究者が興味を持つところであり、レセプターとの分子レベル・構造レベルの作用機構の解明が次の重要なテーマである。タンパク質に組み込んだ機能性ペプチドが消化後、期待通りの濃度を体内で生成するか、その後のペプチドの消長、ヒトでの効果と安全性の検討が今後の実用化に向けて必要である。小胞体ストレスにより発現する遺伝子産物が大豆のβ-コングリシニン、グリシニンの品質管理に直接関わっていることの発見は価値が高いが、コングリシニン以外の目的タンパク質においても同じかどうかは、今後の検討課題である。

中課題B「高機能化タンパク質蓄積作物の開発」
((独)農研機構北海道農業研究センター 石本 政男)

遺伝子改変ダイズで機能性ペプチドを効率的に発現させる有用な技術を開発し、実際に機能性ペプチドを含むタンパク質をダイズ種子で蓄積させることに成功したことは評価される。実用化に向けては、どの程度の濃度で蓄積させれば実用化レベルと言えるのか、ヒトでの機能と大きく絡むが、栽培コスト、分離精製コストなども含め、予測を立てる必要がある。また、ダイズ種子で大量に蓄積しているβ-コングリシニン、グリシニン欠失系統を遺伝子組換えに適した系統で育成したことは、目的にかなった材料作出であったが、外来遺伝子を導入しても期待したこうのうどタンパク質蓄積が達成されなかったことは残念である。この系統を用いる考え方は機能性ペプチドに限らず、多くの有用タンパク質生産に繋がる技術なので、今後は目的タンパク質が高濃度蓄積しなかった理由を明らかにし、系の改良に取り組んで欲しい。