生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 事後評価結果

植物の増殖と分化を制御する分子的ネットワーク

(名古屋大学大学院理学研究科 町田 泰則)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

本研究プロジェクトは終了してみれば、それは極めて基礎的学術研究の色彩の強いものになっていることに気付かされる。当初の研究目標は、植物における細胞質分裂の制御をMAPキナーゼ・カスケードの関わりの点から解明し、そこでの基礎・基盤的研究成果を"細胞サイズの人為的制御技術の開発"に繋げることで、農作物の収量増強など農業面への貢献をうたい文句にしていたと思う。しかし、それが中間評価時点で当初目標の期間内達成が難しくなって軌道修正され、それに向けたより基礎的研究に特化・充実することになり、計画そのものがより一層学術研究の要素を強くしたことは否めない。
そのため、本研究の成果は学術基礎研究としてはレベルの高いものとなっている点は評価してよい。
例えば、シロイヌナズナの分子遺伝学的研究とタバコ培養細胞を用いた生化学的研究によって、植物の細胞分裂に関するMAPKカスケードの主要な因子の単離・同定を完了し、さらにその上下に位置している因子についても研究を進めて、新たな因子を複数同定したことは高く評価できる。さらに、同定した因子の機能解析によって、本MAPKカスケードの活性化メカニズム及び、MAPKカスケードが細胞分裂を進行させる制御機構の一つを分子レベルで明らかにしたことは高く評価できる。
シロイヌナズナの変異体のリン酸化タンパク質の解析から、NACK-PQR経路の下流因子の網羅的探索を行い、植物細胞独特の細胞壁合成に関わっていると考えられる因子が多数同定された。これは、MAPKカスケードが、フラグモプラスト微少管の制御のみならず、多くのステップに協調的に関与している可能性を示唆しており、今後の展開が楽しみである。今後はリン酸化カスケードから細胞分裂に伴う多くの生化学反応へのパスウエイが解明されることを期待する。
一方、中課題2の腫瘍形成遺伝子6bの機能解析では、ヒストンH3との関係で、クロマチン・リモデリングを介した遺伝子発現調節まで話が発展していたが、これについては残されている問題が多く、更なる研究が待たれる。何れにしろ、あまりにも基礎研究の色彩が強く、農林水産業への応用はほとんど考えられない。