生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 事後評価結果

生殖細胞のインプリント機構の解明と単為発生動物の開発

(東京農業大学応用生命科学部 河野 友宏)

総合評価結果

極めて優れている

評価結果概要

本研究は哺乳類における単為生殖の阻止が如何に達成されているかを、具体的に示した生殖生物学の発達史に残る成果と評価される。即ち、ゲノムインプリンティング制御機構を改変して二母性動物を作出する技術の開発に成功したことは世界に誇る業績であり、これだけでも充分評価でき、基礎科学研究として最大の評価を与えられられる仕事であろう。研究代表者が開発した独自の技術・手法である二重の核移植技術と独創的な発想によるH19遺伝子欠損マウスの成長期卵母細胞の核と成熟卵母細胞の核を用いて2つの雌核由来の胚および産子の作出に成功したことは画期的な成果であり、さらに、H19およびIG-DMR欠損マウスの交配により得られた個体に由来する2つの遺伝子領域制御の欠損マウス(理論的には二重欠損の個体は1/4)の卵母細胞の核を使用することにより、2つの雌核に由来するマウス個体の生産効率を大幅に改善されたことも高く評価できる。
また、上記の手法で作出した胎子、産子のほか、雄性・雌性発生胚・胎子、遺伝子欠損マウス由来の産子などの多角的な遺伝子を含む領域の父方インプリント発現への改変、すなわち、この2つのメチル化インプリント領域が個体発生を制御する父性制御領域として機能し、他の領域が不要であることを示唆する所見などを得るだけでなく、単為発生胚・胎子に特徴的な遺伝子発現のカタログ化、単為発生胎子におけるcDNAライブラリーの構築など、学術的に価値のある貴重な知見を着実に蓄積しつつあり、今後の研究穂発展も期待されるなど、当初計画を上回る科学的に価値のある成果をあげた優れた研究と評価できる。
産業への波及効果はこの瞬間は間接的なものに止まるが、二母性個体の作出が不可能ではないことを示し、その根拠を合理的に説明した本研究の成果は、家畜等に実用的見地からの新たな研究を生みだす大きなきっかけを与えたと考えられる。また、発生学をベースとした様々な応用、実用的研究分野も展開しており、新たな研究の切り口を提供することは間違いないであろう。