生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 事後評価結果

耐病性植物育種の分子基盤研究

(独立行政法人農業生物資源研究所 大橋 祐子)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

本研究は、病害抵抗性植物育種を目指し、植物の病原体感染や傷害に対する抵抗性機構をタバコとイネを用いて解析し、病原体感染による細胞死の機構と、その後の抵抗性獲得機構を、分子レベルで解析することを目的として実施された。
その結果、タバコについてはウイルスを病原体として、イネについてはいもち病菌を病原体として、過敏感細胞死に至るMAPキナーゼ経路、それに関わるエチレン、サリチル酸、ジャスモン酸の発現調節機構など、過敏感細胞死の実行に至るプロセスをかなり明確にすることができた。イネについては、タバコなどとの比較から、耐病性マーカー遺伝子を明らかにするとともに相互の違いなども明らかにした。こうしたマーカー遺伝子は、さらに詳細に解析することで、耐病性植物育種に有用なプロモーターの開発や耐病性発現のマスター遺伝子の解明につながることが期待される。また、イネのいもち病抵抗性発現には、エチレン合成系がきわめて重要であることを示し、エチレン合成に関与する遺伝子を明らかにするとともに、抵抗性発現はエチレンそのものの効果よりも、同時に生成される青酸がより重要であることを示した。このことは、これまで誰もが示さなかった新たな視点であり、今後、青酸の耐病性発現に至る機能や、その機構が解明されることによって、耐病性植物の育種に新たな貢献をするであろう。さらに、WAF-1の発見とその病害抵抗性における役割は、今後の環境負荷を軽減する農薬開発に新しいコンセプトを提示している。
これらの成果は、いずれもインパクトファクターの高い専門誌に原著論文として、また国際会議やシンポジウムなどで公表されており、学術的にも応用的にも重要な成果として世界に発信された。ただ欲をいえば、育種のための分子基盤をもっと明確に絞って研究計画を立て、各グループが連携を深めて研究を展開していたら、さらに優れた予想外の成果も得られたのではないかと思われた。今後、本プロジェクトで得られた多くのデータが活かされて、研究がさらに発展することを期待したい。