生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 事後評価結果

イルカ型ソナーをモデルとした次世代魚群探知技術の研究

(独立行政法人水産総合研究センター水産工学研究所 赤松 友成)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

本研究の目的は、イルカの持つ優れたソナー能力を解明し、イルカのソナーを真似たイルカ型人工ソナーを用いて、魚を効率的に探索し、判別するための技術を開発することである。この目標のため、当初は課題1としてイルカの音響探索行動の計測、課題2として任意魚類からの音響散乱モデルの構築、の2つの個別課題について取り組んだ。
課題1では小型マイクロデータロガーを開発し、イルカソナー探索行動の様々な特性を明らかにして、課題2で広帯域の任意魚種の三次元TS(一尾あたりの反射強度)を明らかにする計画であった。しかし、課題2については、魚体の3次元形状のモデリングと魚体表面の音圧分布の解析にとどめ、中間評価後は、課題1で提案したソナーモデルを用いて、魚体の反射特性を実験的に計測し、反射波形の差異を検出して魚種判別を行うイルカ型ソナーの工学的検証を行うことに変更した。
課題1では、開発された音響データロガーを用いて野外においてイルカソナーの行動計測を行い、雑音制御や混信回避方法の開発に有効ないくつかの重要な手法を明らかにした。すなわち、極短パルス音による高精度空間分解、パルス感覚とビーム幅調整による広範囲探索と反射音排除、オートフォーカスの様な時間軸受信制御、スペクトルの情報平均化による信号対雑音比の改善である。課題2では、課題1の成果をもとに、イルカ型ソナーを模倣した装置(イルカソナーシミュレーター)を開発した。これは高精度の空間分解能を持ち、魚群の中の個々の魚を弁別し、魚種を推定できる可能性があり、次世代魚群探知機の原型となるものである。
イルカが進化の過程で身につけたソナーの能力に関し、科学的手法でその仕組みや性能を解明し、これを水産資源調査や持続可能な漁業に応用しようという代表者の発想と研究は世界に例がなく、また一定の成果を出したことについて高く評価する。特に、独自に開発した小型データロガーをイルカ固体に装着し、イルカが極短パルスで、かつ、広帯域信号のソナーを用いて、混信回避、雑音制御、あるいは対象の注目のために、パルス間隔とビーム幅をフレキシブルに最適化させ、水中の世界を効率的に探索できるメカニズムを有していることを次々と明らかにした。課題2においては課題1の知見に基づいてイルカ型ソナーのプロトタイプを実現し、これを実際の魚を対象として水槽や海上で検証し、また最大の目標である魚種判別のメカニズムをある程度明らかにした。
今後、魚種判別アルゴリズムの更なる検討を行い、イルカのソナー能力の長短を見極めた上で、応用をする必要があろう。また、資源調査に応用する際に、例えば送波強度、ビーム幅、発信パルス間隔を変化させた場合、現実の信号処理は極めて複雑になることが予想される。これらの定量的評価をした上での応用を期待したい。
本研究は、当初目標としてのイルカの生物学的な観察と解析を行い、それに基づいてイルカ型ソナーや魚群探知機につながる研究開発をしており、高く評価する。