生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 事後評価結果

染色体断片群の導入によるコシヒカリの複数有用形質の同時改良

((独)農業生物資源研究所 石丸 健)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

イネゲノム解析が終了し、また、倍加半数体系統や染色体部分置換系統などのリソースが整った現段階において、イネの育種は良食味と各種ストレス耐性を備えた超多収品種の育成に向かうべきであるにもかかわらず、本課題のような「コシヒカリの改良型の育成」程度の矮小な話になってしまうのは残念な事態ではあるが、コメ余りの現状においてはやむを得ない。イネゲノム解析の成果は中国、東南アジア諸国、インドなどにおいて役立つことが期待されるものの、当面はインフラの整備や人材の育成(教育)がリミットになるであろう。提案者の所属する生物研は品種育成を使命とする機関ではないので、実用品種(スーパーコシヒカリ)を育成しようとする試みは最初から無理があり、しかも交配の親に選んだカサラスはコシヒカリの欠点を改良する遺伝子のドナーとしてふさわしいとは考えられない。
本研究で得られた成果は当初期待されたほどのものではないが、農学分野の応用的な研究で画期的な成果がでないのは、研究者の能力や研究体制の問題と言うよりも、我が国の産業構造の問題かもしれない。そのような制約の中で考えるならば、本研究はよく頑張ったと評価することも可能である。
しかしながら、本研究は一定の成果をあげたといえるが、中間評価段階で軌道修正を図らざるをえなかった。これは、「スーパーコシヒカリ」を育成するという当初の目標設定に無理があったためである。「スーパーコシヒカリ」というためには同質遺伝子系統である必要がある。同質遺伝系統とするには本研究で選抜された系統の染色体領域は大きすぎる。一つのQTLを導入してpr15コシヒカリの同質遺伝子系統を育成するときでも、相当数のの個体を扱い、目的の染色体領域を狭める必要があるが、同時に複数のQTL領域を導入して同質遺伝子系統を育成するのは不可能である。また、染色体断片置換系輝群を用いて同質遺伝子系統を選抜する試みは多くの研究者により取り組まれており、本研究での試みが染色体断片群の導入による新たな育種方法と呼べるものではない。
インディカ品種カサラスに由来する耐倒伏性QTLであるpr15の機能を解析したことなどは今後の育種や生理研究に結びつくものと思われる。しかし、近年の遺伝子分析においては遺伝子単離まで行うことが一般的であると考えられるので、本研究の結果が十分な成果であるとはいいがたい。収量性関連形質やアレルゲンタンパク質のQTLについては解析が緒についたばかりという状況であり、今後の研究の進展に期待したい。