生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2007年度 事後評価結果

果樹等における花成制御技術の開発

(農研機構 果樹研究所 古藤田 信博)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

(1)全体評価

本課題は、シロイヌナズナの情報をリンゴ、カンキツ、セイヨウナシ、ポプラなどの育種に応用するための基礎的知見として、これらの種における花成制御に係わる遺伝子を探索し、その機能を解明するとともに、解明した遺伝子を導入して早期開花系統を作出し、世代交代の促進、果実の品質改良、林木育種の効率化を目指すものである。
このため、モデル植物ではなく経済栽培品種を対象に研究を行い、早期開花遺伝子を導入して実際に早期開花誘導を可能としただけでなく、結実を誘導し、果実品質の一応の評価が可能なことを示し、さらにはそれを基盤として共発現や再導入系を開発し、種々の遺伝子の機能解析を短期間で可能とした点で評価できる。
しかし、オウトウでの遺伝子導入系を断念したり、カンキツではモデル植物的なカラタチを主たる研究対象として継続した点は残念であり、今後はより確実な形質転換系の開発を実用品種においてチャレンジしていくことを望みたい。

(2)中課題別評価

中課題A「果樹における世代促進技術及び遺伝子機能解析系の開発」
(農研機構 果樹研究所 古藤田 信博)

リンゴおよびカンキツ類を対象とした花成に関与する遺伝子の単離と機能解析、世代促進を目的とした早期開花性形質転換体の作出とそれを利用した果樹育種上の重要遺伝子の導入を可能とする共発現系を開発するなど、精力的に研究を遂行しており、当初の目的を果たしている。また付加的な成果ではあるが、遺伝子解析の結果としてリンゴの複二倍体起源説を支持するような結果が示せたことは興味深い。
実用品種に対して具体的に果実の形質を改良するという点については、解析対象遺伝子に対する知見や評価方法に対する知見は得られているが、具体的な品種の作出という点ではまだ研究の半ばであり、今後の研究の進展に期待したい。

中課題B「セイヨウナシ・オウトウにおける生殖器官発現性遺伝子の解析」
(山形県農業総合研究センター 農業生産技術試験場 高品 善)

セイヨウナシの実用品種を対象に早期開花個体を多数作出し、それを利用して果実の成分分析や果肉の質などの改変がある程度可能であることを示せた点で、意味のある成果を得ている。また花成遺伝子が導入された形質転換体への別の遺伝子の再導入が可能なことを示せたことは、安定した早期開花性を持つ選抜個体を利用して、有用遺伝子を導入しながら併せて果樹育種に関する遺伝的な基礎情報を得る上での成果と言える。さらに単為結果性、自家不和合性、果実軟化、エチレン生合成など、果樹育種に重要な生殖器官で発現する遺伝子を導入した早期開花性個体を作出できたことは、現時点での評価は無理にしても今後の実用品種作出に向けての成果と言える。

中課題C「遺伝子組換え技術を利用したポプラの花成制御技術の開発」
((独)森林総合研究所 伊ヶ崎 知弘)

ポプラを利用して永年性木本の花成制御に関する遺伝子を網羅的に探索し、その機能の解明を行ったこと、他のA、Bの中課題を効率よく進める上で有用なベクターの開発を行ったことなど、永年性木本種に共通する基盤技術の開発に着目した研究を進め、ほぼ計画通りの成果を得ことは評価できる。一方、ポプラはモデル植物の扱いを受けているとはいえ、それ自体重要な林木であるから、本研究で得られた知見は、まず最初にポプラの育種として望まれている有用遺伝子の導入と、その早期評価に利用されるべきであろう。その上で今後は、果樹だけではなく、他の重要な林木に対する本研究の育種的な応用を積極的に展開すべきであろう。