生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2007年度 事後評価結果

筋衛星細胞を筋細胞・脂肪細胞へ分化させる運命決定因子の同定

(東京大学大学院農学生命科学研究科 山内 啓太郎)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

本研究は3年間という短期間ではあるが、独創的な筋衛星細胞の分化運命に関与する細胞外因子の探索および細胞内因子の探索のための評価系の確立、そして得られた情報に基づくin vivo系での機能解析を目指したものである。研究提案者の研究スキームは理にかなっており、プロテオーム解析、DNA解析、トランスジェニック、その他最新の細胞工学技術を駆使した優れた研究であると評価される。
成体でも筋と脂肪細胞に分化可能な状態で筋組織内に保持される筋衛星細胞を標的に、家畜の肉質の制御ないし改良のプリンシプルを探る試みは、結果として相当程度報われたと考えられる。代表者らが提示した研究のストーリーとその応用出口を見れば、類似の先行研究が多数あっても不思議が無いように思われる。しかし、このような研究は、大きくいえば「発生学」の枠内で、「細胞分化」の一つの例として、胎生期の「筋芽細胞」などを用いて行われることが多かったためか、意外に先行研究は少ない。その点で、筋衛星細胞の筋細胞、脂肪細胞への分化を、物質レベルである程度制御したと言う実績や筋細胞と筋衛星細胞のクロストークの一端が、幾つかの手段で示せたことは、それら自体で価値があろう。
このような研究が切っ掛けになり、優れた株化筋衛星細胞とそのマーカーが得られていること、反芻動物でも筋衛星細胞の標品は取得が可能なことなどの今回得られた成果をベースに筋衛星細胞を標的に定め、例えば、徹底的に脂肪交雑を高めるというような目標が設定されれば、実用研究が進捗する可能性は高い。そのためには、反芻家畜の筋衛星細胞にはFGFへの反応などネズミとは性質を異にする部分もあり、株化細胞、ラット・マウス、シバヤギなど実験家畜のみならず、牛など産業動物も対象とした総合的な研究が必要なことは明らかである。本研究で得られた成果が、産業動物である牛や豚で、問題なく使えるか、牛、豚の筋肉・脂肪細胞を用いて研究を進めている他の研究者との共同研究に発展させることを期待したい。