生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2007年度 事後評価結果

天然環境毒素による重要穀類の汚染低減化にむけた技術創成

(理化学研究所中央研究所 木村 真)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

赤かび病菌Fusarium graminearumは、コムギとトウモロコシ穀実生産において、病害による収穫量の減少に加え、トリコテセン系やゼアラレノン等の毒素を可食部に蓄積させ食の安全を脅かして、世界的に極めて大きな問題となっている。そこで、本研究では、赤かび病菌が生産するトリコテセン系毒素の生合成において、キーとなる経路遺伝子の機能解析を実施し、生理活性物質からトリコテセン系毒素産生制御剤の探索を行い、さらに、ゼアラレノン毒素を分解する能力を有する飼料用トウモロコシを作出し、マイコトキシン(かび毒)が穀粒中で分解されゼアラレノン汚染を生じないことを実証しようとした。
まず、重要な研究成果の一つは、トリコテセン系毒素の生合成においてキーとなる酵素がCYPであり、4つもの異なる位置の炭素を順次酸素付加を行うユニークな多機能酵素であることを発見したことである。二つめは、生合成遺伝子の発現を検出する系を作り、二次代謝への浸透圧の影響や、MAPK情報伝達系の関与、あるいは特定の農薬による促進などを見出したことである。これら2つの糸状菌二次代謝に関する発見は、科学的に価値の高いこととして評価できる。
また、実用化に近い研究成果として、フラボノイドやフラノクマリンなど植物由来の生理活性物質にトリコテセン系毒素生成抑制作用があることを見出し、ゼアラレノン毒素分解組換えトウモロコシの作出に成功した。このトウモロコシにおいて、マイコトキシン汚染軽減作用が確認されているので、世界に先駆けて実用化される可能性は十分にある。しかし、マイコトキシンの危険性の問題や、組換え穀物の安全性の問題を、どのように消費者に知らせ、受け入れてもらうか、広報戦略が重要になる。今後は、実際の圃場に近い条件で栽培してマイコトキシン蓄積量を測定する第3者評価を行うと同時に、組換え体承認のために法律で定められた一連のデータを揃える必要がある。これらの「毒素生成抑制剤の開発」および「ゼアラレノン分解遺伝子を導入したトウモロコシの作出」については、実用化に至る確実な第1歩を踏み出したという点で高く評価できる。