生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2007年度 事後評価結果

レギュレーター脂質の機能解析と高機能性食品創製への基盤研究

(東京大学大学院農学生命科学研究科 佐藤 隆一郎)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

(1)全体計画

本研究はレギュレーター脂質に着目し、レギュレーター脂質がトランスポーターや、転写因子、核内受容体などの機能タンパク質を調節するメカニズムを明らかにすることにより、レギュレーター脂質の機能を活用した高機能性食品を創製しようとするものである。生活習慣病発症における脂質の役割については近年特にその重要性が認識されるようになってきたが、未だに不明な点が多い。また、生活習慣病の発症には特に食事との関係は切り離せない重要なものであり、従って、レギュレーター脂質の機能解析を行い、その成果をもとに高機能性食品創製に向けた基盤研究を行うという本課題はまさに時機を得たものであると思われる。本研究課題の中課題A、B、Cを担当する研究者は、世界においてそれぞれ転写因子、トランスポーター、核内受容体の研究分野を代表する研究者の一人であり、学術的水準の高い十分な成果が得られ、これらの研究領域におけるインパクトは大きい。また、高機能性食品創製という観点においても一定の成果が得られており、今後、これらの成果が農林水産業・食品産業といった生物系特定産業に寄与することが望まれる。

(2)中課題別評価

中課題A「転写因子、核内受容体による脂質代謝制御機構の解明とレギュレーター脂質による調節」
(東京大学大学院農学生命科学研究科 佐藤 隆一郎)

脂質代謝に重要なSREBPと相互作用して互いの活性を調節する新たな核内受容体LRH-1を同定し、SREBPがLRH-1を負に制御することによりメタボリックシンドローム発症を促進している可能性を明らかにした成果や、LDL受容体mRNAの安定化に寄与するmRNA上の配列(ARE1配列)を明らかにし、その配列に結合するタンパク質を絞り込むところまで成功した成果は、独創性があり、研究の水準も高い。さらに、CoA-BAP systemを構築し、脂質代謝の改善効果が期待できるFXRリガンドを探索することにより、200種類程度の食品成分の中からフラボノイドの一種クメストロールを同定したこと、さらに、CoA-BAP systemを改変したCoR-BAPsystemを構築し、HNF-4活性を負に制御するニトロゲニステインを同定したこと、これらの成果を特許出願したことは、高機能性食品創製という観点からみても評価でき、生物系特定産業に寄与する可能性も期待できる。

中課題B「脂質トランスポーターの活性調節機構の解明と高機能性食品による調節」
(京都大学大学院農学研究科 植田 和光)

ABCトランスポーターのなかでも特に脂質輸送との関連が強いAサブファミリーとGサブファミリーに焦点を当て、ABCA1がオレイン酸とパルミチン酸をもつホスファチジルコリンを最適な基質として認識して輸送している可能性を明らかにした。さらに、ABCA1がホスファチジルコリンとコレステロールをapoA-1に受け渡すのに対して、ABCG1はスフィンゴミエリンとコレステロールを排出して、両者が協調的にHDLを形成することを明らかにした。さらに、食品中のステロールの選別的吸収や肝臓からのステロールの排出に関与するABCG5/ABCG8が胆汁酸の存在下においてステロールを細胞外に排出することも明らかにした。これらの成果は、脂質輸送に関与するABCトランスポーターの機能や調節機構を解明するとともに、生体におけるHDLの形成機構を明らかにしたものであり、独創性がありインパクトも高い。これらの成果は、ABCトランスポーター活性をレギュレーター脂質によって調節することにより、血中の脂質代謝を制御しうる可能性を示しており、今後、農林水産業・食品産業といった生物系特定産業に寄与するような成果が望まれる。

中課題C「核内受容体を利用した骨増強食品素材評価系の構築に関する研究」
(東京大学大学院分子細胞生物学研究所 加藤 茂明)

破骨細胞に特異的なアンドロゲン受容体あるいはエストロゲン受容体欠損マウスを作製することにより、男性ホルモンの骨組織への同化作用は破骨細胞に存在するアンドロゲン受容体を介した骨吸収抑制作用によること、女性ホルモンがFasLを介して破骨細胞の細胞死の促進作用を有することを初めて明らかにするなど、骨粗鬆症の発症メカニズムの解明に大いに寄与するインパクトの高い成果を得ている。さらに、骨代謝に深く関与するビタミンDや性ステロイドホルモン受容体に機能的に相互作用する転写共役因子複合体群の同定をも行うなど、ステロイドホルモンの作用機構に関する研究としては独創性があり、質の高い成果が得られている。成果の論文発表という点でも優れている。しかし一方で、特許化や高機能性食品の創製という観点においては、成果は必ずしも十分とはいえず、将来における農林水産業・食品産業といった生物系特定産業に寄与するような成果が望まれる。