生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 事後評価結果

昆虫が有する病原体認識システムの解明とその利用

(東北大学大学院薬学研究科 倉田 祥一朗)

総合評価結果

極めて優れている

評価結果概要

この研究は、(1)昆虫の病原体認識システムの解明と利用と、(2)昆虫の防御反応を制御する化合物の探索と利用、という2つの研究項目が設定され、研究は順調に進展し、当初予想しなかったすばらしい成果まで出ており、極めて高い達成率であると評価できる。
(1)の課題に関しては、とくにPGRP-LEが、細胞外のみならず細胞内でも受容体として機能し、オートファジーにより細胞内感染菌の除去が行われることを明らかにした。また3種の新規病原体認識因子を見いだし、理論的にはこのシステムがうまく働くことを実証した。そして、そのうちの一つrGCはグラム陽性菌耐性に関与することを明らかにした。
(2)の課題では感染防御反応を抑制する化合物を20種、促進する化合物を3種得るこ
とに成功した。さらに、有効ないくつかの化合物については合成法も確立し、誘導体も合成してさらに強力な化合物を得ることに成功している。また、実際に昆虫モデルを用い防御反応の制御効果を実証している。
これらの成果は、昆虫の生体防御機構の解明に大きく貢献すると同時に、ヒトを含む哺乳動物の自然免疫系解明にもつながる知的基盤を構築した点で、今後の自然免疫研究のスタンダードとなりうる研究成果であり、高く評価できる。またこれらの基礎研究を基盤として開発されたいくつかの技術は、特に選択性の強い昆虫管理法の開発に繋がるもので、新規な殺虫剤や昆虫防除法の開発に新しい手がかりを与えるものである。
同時に昆虫で開発された化合物が、哺乳動物の自然免疫系の制御に応用できる可能性は高く、動物薬や医薬の開発にも発展する可能性を秘めている。これらの実用化に向けては、さらなる試行研究が必要であろうが、そのためには、多くの試験研究機関と提携し得られた化合物を広く配布して、研究を進める必要があろう。このように、比較的少人数で構成された一研究グループの成果としては眼を見張るものである。研究代表者の指導性が十分に発揮され研究体制が有効に機能した結果と考えられる。情報発信も、原著論文こそやや少ないものの質の高いものであり、総説や幅広い分野にかかわる学会等で多くの招待講演等、情報発信も十分と評価する。