生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 事後評価結果

相同組換え開始酵素Spo11による新世代ゲノム加工技術

(独立行政法人理化学研究所 柴田 武彦)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、相同組換え機構に重要な働きをするSpo11遺伝子を活用して、植物の相同組換え技術を開発することを目的としたものである。その中で中心的課題は、イネのSpo11ホモログのどれが、イネの減数分裂時の相同組換えに関わっているかを解明、それを基礎に、組換え遺伝子のDNAへの結合システム、相同組換えの検出系の確立などにより問題の解決に当たろうとした。当初予想した酵母やシロイヌナズナでのspo11相補系では、イネのSpo11遺伝子が単独では機能しないことが判明し、その中で、テーマ設定の修正などを行い、Spo11を中心とした相同組換えの機構の解析に迫り、重要な成果を得た。課題あげての研究にも関わらず、当初予定したイネSpo11の同定は、達成されたとは言い難いものの、本研究の成果は、それぞれ、科学的に価値の高いものであり、今後、それらの成果を基礎に、イネにおけるSpo11の同定や相同組換え技術を確立していくための基礎的な知見を集積したと評価できる。これらの成果は、現段階では、実用レベルでの技術の確立には結びつかないが、それの成功への夢を持たせるものであったと、評価する。今後、これらの研究を基礎に、イネ等の植物にとって、今は夢の技術であるこの相同組換えについて研究を進め、食料生産や、植物生産への活用が図られることを期待したい。

(2)中課題別評価

中課題A「組換え開始酵素Spo11による標的相同組換え活性化法の確立」
((独)理化学研究所 柴田 武彦)

本研究の他の中課題の活用の原点であった、機能しているイネのSpo11遺伝子の同定はできなかったが、それらの同定や機能を解明するための基礎的な知見として、CFP-YFP相同組換えアッセイ系を構築したこと、植物のSpo11を活性を保って精製できたこと、組換えにクロマチン再編成が大きく影響すること、そこに働く非翻訳RNAを発見したことなど、科学的に価値の高い成果を得、今後の展開に期待を持たせる結果を示すことができた。これらはこのグループの先行的な研究である酵母の系での研究実績が十分生かされたものであると言うこともできる。これらの成果が今後相同組換え技術の開発などに生かされていくことを期待したい。情報発信は十分なされていると判断する。

中課題B「組換え開始酵素Spo11によるイネの相同組換え制御」
(東京農業大学農学部 若狭 暁)

中課題Aをサポートして、機能するイネのSpo11遺伝子の導入と、相同組換えの検出系の手法の確立を担当することが主要な課題で、その準備については、十分な成果が得られている。一方、イネの4種のSpo11ホモログの発現解析を行う中で、これらの遺伝子の特性について、きわめて興味深い成果を得ることができた。自然条件でも、減数分裂期を経過した細胞では、内在性のSpo11の効果によって、相同組換え効率がこれまでに想像されていたよりずっと高いことなどの成果を得ている。目標達成に向けた、イネSpo11の機能活性を評価するような実験には成功していないが、全体としては今後に活用できる重要な成果を得ている。
今後これらの成果を整理して、成果を公開すべく論文として発表されることを期待する。

中課題C「組換え標的遺伝子特異的に結合するタンパク質ドメインの開発」
(早稲田大学理工学部 胡桃坂 仁志)

中課題Aでのspo11同定後を見据えた研究を展開した。その中で、WRKY遺伝子のDNA結合ドメインを活用して、DNAの配列特異的結合性を高めるための開発を行うとともに、DNA結合親和性の解析法を確立した。その中で野生型イネで起きる20倍のDNA結合能を示すWRKY1-DBDの遺伝子組換えタンパク質の作製に成功する等、一定の成果を上げている。さらには、標的遺伝子の組換え効率を上げるため、Spo11の下流で働く遺伝子群の機能解析を行い、発現タンパク質を作製し、生化学的な解析を行った。以上のようにイネ由来の転写因子のDNA結合領域WRKYドメインの性格付けという点で着実に研究を進めるなど、分担課題としてその責任を果たしているものといえる。
学術的意義や情報発信の点でも一定レベルは満たしている。

中課題D「昆虫での、Spo11誘導による高効率な標的相同組換え法の確立」
(京都工芸繊維大学大学院工芸化学研究科 草野 好司)

当初、相同組換えのモデル系としてショウジョウバエの系での解析を担当するものとして計画された。しかし、研究を進める中で他の中課題との連携を深める方向に修正し、植物のspo11遺伝子群とショウジョウバエのSpo11との機能類似性を明らかにすることで、植物のホモログなどの機能の証明に活用できないかという視点での研究に切り替えた。その結果、酵母やシロイヌナズナでは相補系が働かなかったイネのSpo11遺伝子が、ショウジョウバエのSpo11を相補できることを見いだし、イネにおけるSpo11ホモログ群の機能解析への道を開くことができた。ただ、この全体の目標達成に寄与できると思われるショウジョウバエの成果が深く追究されているようには思えないのは残念である。研究期間の後半には論文発表がなく、論文数が少ないことは、残念ではある。今後、得られた成果を論文として発表されることを期待したい。