生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 事後評価結果

動物ゲノム情報の多面展開を目指したDNAメチル化プロフィール解析

(東京大学大学院農学生命科学研究科 塩田 邦郎)

総合評価結果

極めて優れている

評価結果概要

本研究が達成した最大の成果は、世界に先駆けてDNAメチル化/脱メチル化による遺伝子転写制御機構がゲノム全体に広範囲に存在すること、そのことが細胞あるいは組織特異的な発現遺伝子のレパートリーの決定に大きく貢献していることを実証的に示したことにある。このことは、発生工学、移植工学に用いられる細胞の正常性の評価に役立つことはもとより、正常から逸脱した細胞機能に由来するガン病変、あるいは生活習慣病病変等々について、その病因の根源的な理解と、その対処法に関する一つのアプローチを示したものとしても評価される。以下に、そのような成果をもたらすに至った研究内容の概要を記す。

  • ゲノムワイドDNAメチル化領域解析:D-REAM開発によるT-DMRのDNAメチル化プロフィールのデータ蓄積と確立: RLGS法による網羅的DNAメチル化デ-タの取得は計画以上のペ-スで達成され、新たにD-REAM法が開発され、そのデータベ-スが公開された。D-REAMの成果は、塩田ら独自の技術開発に負っており、DNA メチル化プロフィ-ルのデ-タベ-スの完璧化は今後においても続けられるべき21世紀の課題ではあるが、デ-タをここまで大規模化したこと、また、マウス個体、ウシ、数々の培養細胞についてのDNA メチル化プロフィ-ルを明らかにしたことによって、細胞、組織特異的メチル化領域(T-DMR)がそれらの特異的な発現遺伝子のレパートリー形成に相関があることを示した功績は大きい。開発された解析法および解析ツ-ルは、今後におけるエピゲノム研究の展開に大きな可能性を開いたと言えよう。
  • DNAメチル化制御機構に関する生化学的解析: 非コードRNA によるT-DMR領域と特異的脱メチル化誘導で、特許申請も終えている。また、ヒストン修飾がT-DMR領域特異的なDNAメチル化に与える影響もヒストンメチル化酵素(G9a など)欠損細胞などを駆使して研究され、論文として報告している。これらは、いかにしてT-DMR領域特異的なメチル化あるいは脱メチル化が起きるのかに対して、新たな概念を提供するものであった。
  • 核移植胚・細胞・個体の評価系確立:クローン動物の解析および幹細胞の評価系への応用: 発生・分化やクロ-ン動物の健康、あるいは、幹細胞の評価解析にDNA メチル化解析といる新たな視点を与えている。そこから得られる個々の成果は、ちょうどネットワークの節目を形成し、それを鳥瞰することからエピジェネティクスの基本概念が一つ、また、一つと生まれてくることが期待される。そのような仕事は、触発された他のグル-プによってもなされて行くことであろう。本研究はそれらの研究を可能にする技術的基盤と、研究の概念的方向性を示す役割を果たしたと言えよう。
    本研究計画のメインテ-マではないが、様々な解析法の開発へのチャレンジの中で、通常は不可能と考えられていたメチル化DNAに対する抗体作成にも成功し、特許を申請している。D-REAMは非メチル化を解析するユニ-クな方法で、これを用いることでT-DMRの大規模解析が可能になっているが、一方メチル化抗体は、ガン細胞など、メチル化が大幅に異なっていると予め想定される試料に対して、その実際を示す極めて有用なツ-ルになるものと思われる。