生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 事後評価結果

分子生物学の新しいモデル生物としてのミツバチの開発と利用

(東京大学大学院理学系研究科 久保 健雄)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

このプロジェクトは、いくつかの小課題からなり、それぞれに新規な課題に取り組み着実に成果を上げ、新しい知見を出した。
ダンス言語に関わる解析については、Kakuseiという神経活動のマーカーになる初期遺伝子を見つけ、採餌場所までの距離とこの遺伝子の発現が関連するという興味深い知見を得た。ただし、その後十分に発展させることはできないで終わっている。
連合学習系を用いた視覚情報処理機構の解明は、ダンスコミュニケーション時の飛行距離の定量的認識メカニズム、とくに距離のコード化を意識した課題であるが、課題の難度が高いために、一定の成果は得たものの画期的成果を生むまでには至っていない。
遺伝子の網羅的解析によって得られた視葉に特異的な発現を示すclones1-3の同定は、最も魅力的かつ重要な成果になっている。ダンスや視覚認知に関わる神経回路の特定を進める上で必須の、ニューロン回路をトレースするtoolとなる可能性を秘めた遺伝子群である。その他カースト特異的な遺伝子挙動の発見も同様に極めて興味深く、今後の発展につながるものである。
大形ケニオン細胞特異的に発現する遺伝子の解析では、その線虫でのホモログが、線虫のある神経突起の剪定に関わることを示し、そのメカニズムを遺伝学的に詳しく解析している。MBR-1による神経突起のpruningに関する研究は、Current Biologyに掲載され、続報はNature Neuroscienceにrevise中となっており、このプロジェクトで得られた質の高い成果の1つである。
これらの成果は決して小さくはなく、これからの研究に資するという点で意義深いし、今後の発展が期待できるものである。
ただ、研究の提案と計画、到達目標が、5年間のプロジェクトとしては、過大であり、そのため、成果の大きいわりに総合評価が低いものになってしまった。もっと現実的に各年度毎に達成できることを精査しそれを目標とすべきであったと思う。