生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 事後評価結果

核移植と染色体操作を組み合わせた新規手法による魚類体細胞クローンおよび遺伝子ターゲティング技術の開発

(名古屋大学生物機能開発研究センター 若松 佑子)

総合評価結果

不十分

評価結果概要

本研究の目指す「核移植技術の水産への応用」については全く問題が無く、母系因子の機能の解析や産業魚種への応用など多くのことが期待されたが、研究の推進方向に偏りがあったため、十分な研究成果が得られなかったことは残念である。核移植技術を用いて、系統間或いは種間細胞質・核雑種の胚を作ることが出来れば、卵黄や細胞質に蓄積される母系因子が初期発生の遺伝子の発現や形態形成にどの様な影響を及ぼすか等、科学的に解明されていない重要な現象の機構を解明することも期待された。しかし、研究の方向が細胞分裂や細胞分裂周期にあてられ、メダカにおける体細胞の受精卵への移植の効率化に大きな時間と労力が費やされ、他に先鞭を付けられてしまったのは残念である。
本研究課題は、(1)体細胞核移植の確立、(2)クローン技術の開発、(3)体細胞核のリプログラミングの解明、(4)遺伝子ターゲッティング技術の開発、(5)有用魚(キンギョ)への応用の5課題からなり、このうち、具体的な成果が得られたものは(1)と(2)のみであった。この二つに関しては、予備的な研究は本研究開始前に既に行われており、それを受けて、メダカのクローン作成の効率化とクローン性の評価が行われた。最終年度では、中間評価の意見に従って、メダカ系統特異的ゲノムマーカーを使った研究が実施された。その結果、メダカ体細胞クローン個体の高いクローン性が確かめられた。従って、メダカ体細胞クローンの技術はサイエンスのレベルでは確立したと言えよう。しかし、これ以外の目標は達成からはほど遠く、研究全体としてはきわめて不十分と言える。
メダカ体細胞クローン技術の確立は評価できるが、しかし、この技術確立に必須な卵賦活化などの条件の設定が、科学的根拠を持った必然性に依拠するというより、むしろ経験的なトライアル・エラーによってなされた感が強い。メダカ以外での実用魚種での核移植の試みは、ゼブラフィッシュの追試実験と核移植に向けたキンギョの飼育条件の検討に留まっており、当初期待された産業種に向けての取り組みについての具体的成果が得られなかったことには、このような「経験論」的背景があったのかもしれない。他魚種へ直接の応用に、同じような経験論的基礎実験が一から必要となるのでは、この研究課題の目的にはマッチしない。研究代表者らこれまで、多くの時間をかけて進めてきたメダカの体細胞核移植技術が他の研究者に継承される努力を最大限行ってほしい。そのような技術継承者の中から、メダカの核移植研究に新たな方向性が生まれ、今後の科学的な展開に本技術が貢献できることを強く期待したい。