生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 事後評価結果

高次タンパク質の大量発現用バクミドの開発及び応用

(静岡大学創造科学技術大学院統合バイオサイエンス部門 朴 龍沫)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

(1)全体評価

タンパク質合成能力が高いカイコに生物機能を有する高次タンパク質を簡便に大量発現させる系の構築が目的であるが、カイコを用いたタンパク質発現系をより優れたものにするという観点において、必要とされる技術要素に対しての目標設定は具体的かつ適切であったと思われる。本研究で得られた研究成果は、人為的な制御が可能な昆虫であるカイコを用いたタンパク質の軽便な大量生産システムの開発に繋がり、生物系特定産業への大きな貢献が期待される。また、糖鎖修飾を受けたタンパク質の大量発現に関する研究では、免疫系細胞表面受容体やGタンパク質共役受容体(GPCR)の構造と機能についての解析など、科学的価値が認められ、かつ生物系特定産業への貢献も期待される研究が推進された。
研究成果に関する情報は、中課題間で大きな開きはあるものの、全体としては、論文や学会、シンポジウムなどを通して、国の内外に積極的かつ適切に発信されている。
研究は概ね順調に進捗し、優れた成果を挙げたと言える。

(2)中課題別評価

中課題A「カイコをタンパク質生産工場とするバクミドの開発」
(静岡大学創造科学技術大学院統合バイオサイエンス部門 朴 龍沫)

先に研究代表者自身によって開発されたBmNPVバクミドシステムの利便性と機能性を高めるために所要の改良を施して高品質化を図り、BmNPVバクミドシステムの汎用性を高めることを目的として掲げ、システインプロテアーゼとキチナーゼを欠損させたバクミドやプロモーター改変バクミドの作出や、タンパク質の発現効率を向上させるためのシャペロンの検索、発現タンパク質の分泌効率を向上させるためのシグナル配列の検索などを行い、目的を達成するためのいくつかの研究成果を着実に得ている。これらの研究成果に関する情報も、論文や学会発表などにより、適切に発信されている。BmNPVの汎用性を一層高めるための課題は、少なからず残っていると考えられるが、実用化への基盤を整備した研究として評価できる。

中課題B「免疫系細胞表面受容体の組換えタンパク質とウイルスの作製」
(九州大学生体防御医学研究所 前仲 勝実)

中課題Aで順次開発される改良型バクミドの有用性を、糖鎖修飾が著しい細胞表面受容体などの発現活性と分泌活性などを指標として検証し、より汎用性の高いバクミド開発に反映させることが計画されているが、従来のバクミドを用いた研究にとどまった。しかし、従来のバクミドを用いて、糖鎖修飾を受けたタンパク質の大量発現を確認し、発現タンパク質の精製方法を検討するとともに、細胞表面受容体やGPCRの構造や機能についての解析を行い、科学的価値が認められる成果を得ている。これらの研究成果の生物系特定産業への寄与については、期待はもてるが、今のところ不透明である。研究成果の情報発信については、極めてレベルの高い原著論文を発表しており、評価できる。