生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 事後評価結果

酵素によるイノシトール脂質及びイノシトールリン酸の合成

(名古屋大学大学院生命農学研究科 岩崎 雄吾)

総合評価結果

やや不十分

評価結果概要

本研究は、遺伝子改変ホスホリパーゼD(PLD)を用いて、多様な生理的機能が期待されるホスファジルイノシトール(PI)を、食品工業における副生物や安価な原料であるイノシトールとレシチンから効率的に合成することを目的としたものである。
ホスファチジルイノシトールを合成する新しい機能を有する改変ホスホリパーゼDを創製し、それらの反応生成物パターンを詳細に解明した。また、合成反応により生成する各種ホスファチジルイノシトール異性体の分離・分析法を確立するとともに、新規な異性体も見いだしている。さらに、実用性を考慮して、改変ホスホリパーゼDに耐熱性を付与する点にも目処を得ており、科学的にも意義深い。ホスファチジルイノシトールの合成に関してはほぼ所期の目標を達成していると評価することができる。さらにこの改変ホスホリパーゼDを用いて、レシチンとイノシトールから水不溶性の硫酸カルシウムの共存下にホスファチジルイノシトールを効率的に合成する方法を見いだした。安全性に大きな問題を残さないように有機溶媒を用いない合成を試み、低収率ながら成功していることは評価できる。しかし、合成物質の性質について未だ検討が充分ではない。さらに、本研究の大きな目標である大量調製法についても研究を行い、改変ホスホリパーゼDとホスホリパーゼCの2つの酵素反応を、疎水性膜で仕切ったワンポット反応槽を用いて連続的に行う方法を考案し、イノシトールリン酸の簡便な合成法を構築したことは評価できる。しかし、現状では反応効率が低く、実用性に乏しい。
総合的にみると、基礎的な部分では成果はあがったが、生物系特定産業への寄与という点からは本研究の成果が食品産業に直ちに利用されることは難しいと思われる。基礎的な知見はかなり蓄積されたので、改変ホスホリパーゼDを用いた合成技術により、今後様々な生理機能特性が明らかとなり、用途開発が進むことを期待したい。研究期間と費用からみて、研究成果の発信は充分ではない。今後さらに情報の発信に努め、成果を社会的に還元されることを期待する。