生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 事後評価結果

アブラナ科作物ゲノムリソースおよびプラントアクティベーターを利用した新規病害防除法の開発

(岡山県生物科学総合研究所 鳴坂 義弘)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

(1)全体評価

プラントアクティベーター(植物活力剤、病害抵抗性誘導物質)は、植物が持つ内在性の防御システムを活性化して病害を防除する化合物であり、生態系自体への直接の影響は少なく、環境に対する負荷を大幅に軽減することが期待できるものである。
本研究課題は、ハクサイを対象としてプラントアクティベーターを中心とした環境負荷低減型の病害防除技術を確立することを目的としている。
この目標に対して研究の進め方は妥当であり、大規模スクリーニングによるプラントアクティベーターの多くの有望な候補化合物の取得、ハクサイのcDNA配列情報や病害応答プロファイルとシロイヌナズナ遺伝子との対応関係の検索による病害応答データベースABRANAの構築、ハクサイの土壌病害(根こぶ病、黄化病)に対する防除効果を持つプラントアクティベーター候補化合物の圃場での評価を行うなど、目標はほぼ達成されていると判断される。

(2)中課題別評価

中課題A「新規プラントアクティベーターの検索および評価と病害応答診断アレイの開発」
(岡山県生物科学総合研究所 鳴坂 義弘)

本中課題では、延べ50,000種類の化合物について構築した検定系を用いて解析を終了し、この中からサリチル酸経路を活性化する264個の化合物を同定している。
さらに、二次スクリーニングによりプラントアクティベーターの候補化合物として138個を得た。これは、当初目標としていた以上の化合物数をスクリーニングしたことになり、十分に評価できる。
また、ハクサイで得られたデータとシロイヌナズナマイクロアレイで得たデータとの比較解析を行い、シロイヌナズナの情報をハクサイに利用可能かどうかを検討するとともに、病害診断用のハクサイマイクロアレイの構築を行った。
更に、抵抗性の育種素材のないアブラナ科野菜類炭疽病菌に対するシロイヌナズナ抵抗性遺伝子を遺伝学的手法により探索し、2つの異なる抵抗性遺伝子を発見するとともに、この2つの遺伝子産物がナス科植物の重要病害である青枯病及び斑葉細菌病の認識と防御応答にも関与していることを明らかにした。

中課題B「病害応答診断技術開発のためのハクサイゲノムリソースとデータベースの整備」
((独)理化学研究所 安部 洋)

約5,000個のハクサイcDNAを整備し、配列情報を取得した。これをシロイヌナズナ遺伝子配列と比較解析することにより、ハクサイクローンとシロイヌナズナ遺伝子との対応関係を明らかにした。
また、ハクサイ病害応答診断アレイを中課題Aと共同で開発し、ハクサイクローンとシロイヌナズナ遺伝子との対応関係を検索して、遺伝子発現情報が比較できる病害応答データベースABRANAを開発した。
このように、本中課題は、ほぼ当初の計画に沿った成果が得られているが、完全長cDNAの解析が目標数に達しなかったこと、原著論文数が少ないことが問題点として挙げられる。

中課題C「ハクサイゲノムリソースを利用した土壌病害応答診断技術の開発」
((独)農研機構・野菜茶業研究所 畠山 勝徳)

ハクサイ根こぶ病抵抗性系統の根からcDNAライブラリーを構築して約10,000クローンの部分塩基配列情報を取得しており、当初の目標を達成したと評価できる。
また、本研究で見出されたプラントアクティベーターの圃場における抵抗性誘導能についても検討し、根こぶ病及び黄化病に対する防除効果がある化合物を取得した。
一方、本中課題で得られた結果と直接関係している原著論文は一報のみであり、この研究によって得られた知的財産の登録も無いことから、情報の発信という面からは問題を残した。