生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 事後評価結果

生殖免疫を基盤とした流産・不妊の予防法に関する研究

(山口大学農学部獣医科 度会 雅久)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

本研究は、ブルセラ菌が胎盤中の栄養膜巨細胞(TGC)に感染して免疫バランスを崩すことにより流産を起こすことから、感染の分子メカニズムを解明し流産防止法を確立しようとしたものである。
菌の感染による流産は、すでにマウスモデルで確立しているためこの系を用いて菌感染における宿主TGCの分子機能解析を行った。TGC上のHsc70(熱ショックタンパク質)の受容体としての機能を解析し、C末端部分に存在するEEVD配列を含む領域であることを明らかにした。
この配列はTPRドメインを認識して蛋白質と結合することから、ブルセラ菌側がHsc70に結合する因子を検索し、TPRドメインを持つ3つの蛋白質を得た。
これらの蛋白質及び合成したEEVD配列を妊娠マウスに投与し、ブルセラ菌感染による流産を阻止できることを明らかにした。ブルセラ菌側のBav(Brucella anti-virulence)タンパク欠損株での感染実験から、Bavタンパクは菌のTGC細胞侵入を促進するのではなく、阻害することによって流産を回避するのではないかと考察しているが、この点は疑問である。ただTGC膜上に存在するHsc70が菌の取り込みに重要な役割をはたしている事が明らかとなったことは基盤研究として評価できる。
しかし、ブルセラ菌の本来の宿主である牛を使った感染実験は施設の関係で実施できなかった。さらに牛では胎盤が形成された後、ブルセラ菌はリンパ節等から移動して胎盤に到達し、増殖を始めるため、流産は妊娠後期に多いとされているが、マウスにおける流産は胎盤が形成され始める時期であることから、牛とマウスでは流産の機序が異なるのではないだろうか。
ブルセラ菌は細胞外でも増殖するため、細胞外で増殖した菌も流産に関与すると思われる。