生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 事後評価結果

極限環境生物が継承する生存戦略のオミクス解析に基づく耐酸性・耐高温植物の作出

(立教大学理学部 黒岩 常祥)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、高温・酸性環境に適応する極限真核生物(藻類)シゾンの基礎研究から、高温・酸性環境に適応する遺伝子を単離し、それを導入した新しい環境耐性作物の作出までという基礎研究成果の応用面の可能性の究明までを目的としている。
基礎研究面においては、シゾンの全ゲノム解析をはじめ多くの優れた成果を得ている。
特に、Nature誌に掲載ゲノム関連論文がモデル真核生物の一つに認定されたことは、本研究の成果がこの研究分野の基盤の確立を導いた顕著な成果として高く評価できる。
また、葉緑体中のデンプン粒の増加など植物進化とも関連する可能性のある興味ある発見もあった。一方、応用面の研究として、シゾンの高温・酸性環境耐性に関与すると想定される候補遺伝子を選抜し、大腸菌、ヒメツリガネゴケなどで形質転換体を作成した上で、シロイヌナズナにおいて遺伝子の機能を確認した。その一部は、イネにおいても遺伝子発現を確認された。
ただし、この解析に使われたイネは幼植物段階であり、産業面へ寄与するためには、より進んだ発育ステージのイネにおいて遺伝子の発現を確認する等今後さらに研究が必要である。

(2)中課題別評価

中課題A「シゾンの極限環境適応遺伝子の探索とその応用に関する基礎研究」
(立教大学理学部 黒岩常祥)

研究はほぼ計画通りに進められ、シゾンの全ゲノム解析が完了し、また、これによってマイクロアレイを充実させ、細胞周期を通じての遺伝子発現動態解析を行った。
環境変動耐性遺伝子候補の同定にあたって、シゾンと高等植物との共通遺伝子を特定し、その中から酸性・高温・塩類過剰など環境ストレスに係わる遺伝子12個を見いだした。
また、酸性、高温、アルミニウムイオン、塩類過剰などへの耐性に有効と思われる34遺伝子を見つけ、EST解析から29個に絞ることができた。同時に、選抜した遺伝子の機能シロイヌナズナで確認した。
このように、全ゲノム情報からポストゲノム解析結果まで、「オミックス」というタイトルに相応しい研究成果であったと高く評価する。
また、研究成果は、課題Bへ受け渡されて耐性植物の作出を導いた。

中課題B「環境変動に耐性な有用植物の作出」
(東京大学大学院理学系研究科 平野博之)

中課題Aの研究成果を受けて、ストレス耐性候補遺伝子の選択を行うとともに、耐性遺伝子を導入したイネの作出に成功した。また、これに関連した特許申請を行った。
なお、作出された作物は、研究としての技術的可能性が示された段階であり、また、耐性の検定は、単一の耐性遺伝子を導入した幼植物で行われた。
産業への寄与を考慮すると、複数の環境ストレス耐性遺伝子の導入したイネの作出、また、形質転換イネで生育ステージがより進んだ段階での耐性能評価など今後のさらなる研究が必要である。
このような問題が指摘できるものの、イネの形質転換に時間がかかることを考えると、短い研究期間の中で環境ストレス耐性遺伝子をイネへ導入する先鞭をつけた研究成果とそのための努力は評価できるものである。