生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 事後評価結果

酵素デザインを活用したミルクオリゴ糖の実用的生産技術の開発

((独)農研機構・食品総合研究所 北岡 本光)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

(1)全体評価

母乳栄養児の腸内でビフィズス菌の増殖に重要なミルクオリゴ糖を食品産業に利用するため、ミルクオリゴ糖合成法の開発、関連酵素の立体構造解明、ビフィズス菌のミルクオリゴ糖分解経路の解明等の研究を行った。
ヒトミルクオリゴ糖構成二糖ラクト-N-ビオース(LNB)、ガラクト-N-ビオース等の酵素的大量調製法を確立した。
また、ミルクオリゴ糖のビフィズス菌による代謝関連酵素系を解明し、ビフィズス菌が特異的にミルクオリゴ糖などを菌体内に取り込むトランスポーターを初めて明らかにしたことは、科学的評価が高い。
さらに、母乳栄養児の糞便から単離したビフィズス菌の解析から、ビフィズス菌はLNBを単一炭素源として生育することも示された。一方、オリゴ糖合成に関与する酵素やミルクオリゴ糖分解酵素群の立体構造を解析し、新規構造を7種決定した。
さらに、実用的な酵素は得られなかったが合目的に酵素機能を改変したこと等は基礎科学的には高く評価される。今後はこれらの成果が食品産業において実用化され、また、糖鎖工学においても有効利用されることを期待したい。

(2)中課題別評価

中課題A「ホスホリラーゼ工学によるミルクオリゴ糖製造技術の開発」
((独)農研機構・食品総合研究所 北岡 本光)

解明された代謝経路の情報に基づき、安価な原料からホスホリラーゼを使ってミルクオリゴ糖のLNBを連続大量合成する方法を開発し、実用化に向け、成果を上げたことは高く評価できる。
企業と連携し、実際に生産される体制が構築できれば、食品関連産業に貢献できる。一方、目標の一つであった四糖以上のミルクオリゴ糖合成はLNBが不安定であったため実現できなかった。
しかし、保持型加水分解酵素および反転型加水分解酵素をグライコシンターゼに変換させることに成功し、加水分解酵素の糖転移能を飛躍的に上昇させたこと等は学術的に評価される。

中課題B「ミルクオリゴ糖代謝関連酵素の立体構造解析と改変酵素の分子設計」
(東京大学大学院農学生命科学研究科 伏信 進矢)

タンパク質の結晶構造解析の立場から科学的基盤をプロジェクト全体に提供した。B. longumのミルクオリゴ糖の代謝主要酵素等の結晶構造および反応機構を解析し、新規酵素7種類および変異体・複合体を含め19種類の結晶構造をデータベースに登録し、ミルクオリゴ糖代謝に関わる多数の酵素の立体構造を解明したことは高く評価できる。
また、ミルクオリゴ糖合成変異酵素作出のため構造情報に基づき分子設計を行い、他の中課題と連携して変異体を作出し、一定の成果を得ているが、顕著に活性の上昇した変異酵素の取得は難しく、実用化までの改変に至っていない。
しかし、酵素改変の方向性は示せたと判断でき、今後ともタンパク工学的手法の限界を超えるよう検討を継続して頂きたい。

中課題C「ミルクオリゴ糖を分解するビフィズス菌由来の酵素探索と応用」
(京都大学大学院生命科学研究科 山本 憲二)

ビフィズス菌のミルクオリゴ糖およびムチン糖タンパク質の糖鎖の代謝系を明らかにするとともに、ラクト-N-ビオシダーゼ、ラクト-N-ビオースIとガラクト-N-ビオースのトランスポーター、ミルクオリゴ糖の非還元性末端のL-フコースやシアル酸を切断する加水分解酵素をビフィズス菌から発見した。
さらに、母乳栄養児から単離したビフィズス菌はB. bifidumと同定され、それらの菌株はオリゴ糖代謝酵素群ならびにトランスポーターの遺伝子を保持し、LNBを単一炭素源として生育すること等を明らかにした。
これらの成果は、ビフィズス菌研究に新しい展開をもたらし、学術的にもビフィズス菌利用の面でも大いに貢献したと評価される。