(京都大学大学院農学研究科 伏木 亨)
総合評価結果
当初計画どおり推進
評価結果概要
(1)全体評価
油脂には嗜好性があり、肥満の原因の一つになっている。本研究は、油脂の嗜好成立の複雑な機序を動物実験により推定しヒトにその結果を応用しようと、5つの研究項目に分け、基礎から応用まで極めてチャレンジングな取り組みを行った。
油脂分子の口腔内受容体の同定およびリガンドの認識特性について、オリジナリティの高い研究成果として評価できる。
また、マウスの実験から脂肪酸のβ酸化によるエネルギー生産がエネルギー情報の一部を形成すること、糖質のエネルギーが油脂のエネルギーに代替えできる可能性があることなどを明らかにしている。さらに、脂肪摂取に伴ういくつかの脳内物質の応答と、ラットの報酬系活動とが一致することを見出している。これら基礎的研究は、進行の程度に差はあるが着実に成果が上がっている。
しかし、油脂分子の口腔内化学受容メカニズム、油脂分子の内臓エネルギー情報の実体および脳内における油脂応答ニューロンの探索に関して十分な情報が得られたとは言い難く、研究の継続が期待される。
これら実験動物による基礎的成果である、脂肪酸が油脂の嗜好性を担う物質であること、および1%リノール酸が同じ体積で100%のコーン油と同等の高い嗜好性を呈することの、2つの知見を基に、ヒトによる官能試験を実施し、微量の脂肪酸が味覚として好まれることを見出し、高嗜好性低カロリー油脂の事例を提案している。 研究全体としては、非常に興味深く価値ある知見が多数得られているが、実験動物による基礎的研究では終了時までに達成できていない課題をいくつか残している。一方、ヒト試験においては嗜好性の高い低カロリー食品の開発に向けて大きな前進が見られた。
技術的な完成を見た場合には食品産業界に及ぼすインパクトも非常に大きいと考える。一部未達成な点があるが、低カロリー油脂開発に大きな期待が持てる成果であることを考慮すると、所期の目標を達成したと評価できる。