生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 事後評価結果

幼若ホルモンネットワーク遺伝子の解明と制御

((独)農業生物資源研究所 篠田 徹郎)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

(1)全体評価

昆虫に固有である幼若ホルモン(JH)は、昆虫の変態・休眠・相変異など特異な多くの生理現象の調節に関与している。
昆虫学分野においても、共生環境、健康の視点からの有用生産物開発に技術革新が求められており、JHの生合成・分解・輸送・受容・作用発現に関わるJHネットワーク分子の同定および機能解析によるJH 作用発現の分子機構の解明は、これを標的とした新しいIGR(昆虫成長制御剤)開発への道を拓くことができる魅力的な分野である。
カイコのゲノム情報を基盤としてJHの遺伝子ネットワーク解析に取り組み、全JH合成酵素遺伝子をほぼ同定、変態時鍵酵素JHAMTを発見、JH早期応答遺伝子を決定、新規IGR開発への技術提案を行うなど、JH研究を著しく進展させた。特に、JH初期誘導遺伝子であるKr-h1のJH応答配列(JHRE)を同定し、JH受容体候補遺伝子に挙げられてきたMetの受容体機能を証明できたことは、世界の長年の懸案だったJH受容体の同定を日本人の独自性が解決したとの意味で大きな成果である。
以上のように、昆虫内分泌学の上でもレベルの高い新しい知見およびIGR開発の新しい糸口を見出したことから、本プロジェクトは成功であると率直に評価したい。

(2)中課題別評価

中課題A「カイコゲノム情報に基づくJHネットワーク遺伝子の解明」
((独)農業生物資源研究所 篠田 徹郎)

JH生合成の前期経路の全遺伝子、後期経路最後の2遺伝子を同定し、JH分解酵素については、いくつかの重要な遺伝子を同定するとともに、JH定量法を改良しカイコの成長に伴うJH濃度の変動を明らかにした。
また、JH初期応答遺伝子Kr-h1のJHREを明らかにし、JHREとMetとの相互作用によって遺伝子発現が誘導されること、また動物培養細胞で転写因子BmMet2を強制発現することにより、JHによるJHRE下流発現が起こることを示し、BmMet2がJH受容体であると結論付けた。
以上の成果は、JHによる遺伝子発現機構の核心部分の解明に加え、JHのアゴニストとアンタゴニストのスクリーニングへの応用可能性、ひいては害虫特異的なIGR開発への道筋のモデル提案と言え、本研究の中核をなす成果として高く評価できる。

中課題B「組織培養系によるJHネットワーク遺伝子解明」
(弘前大学農学生命科学部 比留間 潔)

カイコアラタ体の培養系を確立し、アラタ体でのJH生合成を調節する数種の神経ペプチドを同定したが、特に、アラトトロピンの作用が新規のホルモン、sNPFを介すること、側心体もsNPFを合成・分泌しアラタ体でのJH合成制御に関わるとの昆虫分子内分泌に一石を投じる新知見を得ている。
また、エクダイソンも転写因子の誘導を介してJH合成に関わること、その作用に脳が関与することを明らかにした。
さらに、前期JH合成酵素遺伝子および変態時の鍵酵素であるJHMTが、in situハイブリダイゼーションの結果から、側心体では発現することなく、アラタ体のみで発現していることを示した。
また、カイコの皮膚の培養系を確立し、in vitroでJHと20-ヒドロキシエクジソンに対する皮膚の感受性が時期とともに変化し皮膚の蛹へのコミットメントが誘導される機構を明らかにした。