生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2010年度 事後評価結果

オオムギ重要形質に関与する遺伝子の同定と育種への応用

岡山大学資源植物科学研究所 佐藤 和広)

総合評価結果

評点:優れている

評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、オオムギのゲノム基盤を構築し、その活用の可能性を探ることを目的とした包括的な研究であり、基礎および応用の両面で多くの重要な成果を得た。研究にあたっては、オオムギを対象として、先端的なゲノム解析、遺伝学、分子遺伝学、生化学等さまざまな分野の実験手法を駆使し、1ゲノムに関する基盤開発、2ミネラルストレスに関わる基礎研究、3ビール醸造に関わる応用研究を組み合わせた課題構成も高く評価できる。このように実施された研究は、学術的にもすぐれた成果を挙げるとともに、一連の研究で必要とされるマーカーの開発、分析、評価法の確立、置換系統群、中間母本の育成など、将来、生物系特定産業への貢献につながる育種技術、醸造技術の改善への展開を期待させる成果を挙げた。この内、公表されたオオムギのゲノム情報のデータベースは、世界的にも高く評価されうる成果といえる。また、ミネラルストレス耐性に関わる遺伝子の機能等の基礎的研究の成果は多くの論文として発表され、世界的にも注目を集める結果となった。これらのことから、本研究課題を高く評価するものである。

(2)中課題別評価

中課題A「大量マップベース単離システムと育種システムの開発」
(岡山大学資源植物科学研究所 佐藤 和広)

本中課題は、整備が遅れていたオオムギゲノムの基盤情報の構築と関連技術の開発を行うとともに、研究全体の基盤となるものであった。このため、本中課題においては、オオムギ品種「はるな二条」の3H染色体、5H染色体の長腕遺伝子領域を対象にBAC クローンの配列解析を行い、オオムギ完全長配列をマップして予測するシステムを開発し、また、イネ-オオムギ-コムギのゲノム比較機能を盛り込んだデータベースを構築した。これら成果は、応用面では、オオムギのゲノム研究と育種の基盤整備を成し遂げたものであり、今後の優良品種育成の効率化等への活用が期待できる重要な成果である。また同時に、基礎的な研究面においても、オオムギの高速遺伝子配列決定法を開発するなど他の中課題の研究推進に貢献するだけでなく、今後の関連分野の研究にも大きく寄与する成果を得ている。研究の成果は当初の計画を上回るものであり、また、論文発表やデータベースの公開を含めて多くの情報発信を行っている。

中課題B「ストレス耐性遺伝子の単離と解析」
(岡山大学資源生物科学研究所 馬 建鋒)

本中課題は、オオムギのアルミニウム耐性遺伝子HvACCT1のクローニングに世界で初めて成功し、その発現タンパク質はクエン酸に対する輸送活性を持つ等遺伝子の機能を解析した。また、ケイ酸の吸収に関与する3つの遺伝子を同定し、各遺伝子の発現部位を解析するとともに吸収集積機構を解明した。さらに、オオムギにおける鉄栄養関連遺伝子の機能解明を行い、イネとの比較などを通じて他の植物への耐性付与に繋がる成果を得た。また本中課題は、専門研究者からの注目を集めたストレス耐性遺伝子の単離・機能解明という基礎研究にとどまらず、応用面では、中課題Aとの連携によって、優良品種の開発・選抜に向けた中間母本の育成にも関わり成果を挙げている。本中課題の成果は、不良環境におけるオオムギその他作物の生産性向上の新技術として世界の食料生産に寄与することが期待されるものである。このように、基礎・応用ともに当初の計画を上回る研究成果をあげるとともに、研究期間を通じて研究成果の論文発表等を積極的に行った。

中課題C「醸造品質関連遺伝子の単離と解析」
(サッポロビール(株)バイオ研究開発部 木原 誠)

本中課題は、 これまで体系的に組織立った研究がなされていないオオムギの醸造品質関連遺伝子に関して、ビール醸造における重要な形質である「トケ」に関するQTLの絞り込みとジベレリン合成系のキーエンザイム(GA20 oxidase )の解析を通じて一定の知見を得ている。醸造有用タンパク質の研究では、醸造工程のタンパク質の変動を網羅的に解析して高品質ビール麦に由来するQTLを検出し、麦芽品質上重要な特性に関する複数のDNAマーカーを開発した。また、種子からビールに至る醸造工程におけるプロテオームマップを作成したことは、ビール醸造においてタンパク質が関与する全形質を解析する上で極めて重要な基礎データとなり、今後、高品質ビールの開発に貢献することが期待される。このような新たな知見が得られているものの、応用の観点からも基盤の域をでていない成果であること、また、論文発表等研究成果の外部への情報発信が少ないことが気になる。