生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2010年度 事後評価結果

希少糖生理活性の作用機構と生物生産場面での利用

(香川大学農学部 秋光 和也)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

(1)全体評価

本プロジェクトの目的は、香川大学が独自に開発した希少糖類(Izumoring)という研究資源を活用して、希少糖類の農業生産場面での農薬あるいは肥料養液としての利用可能性を検証するとともに、確認された用途に合わせ希少糖の作用機構を解明することであり、最終的に生物生産分野における新産業創出を目指しており、独創性、新規性を有する課題である。研究代表者のリーダーシップのもと、香川大学と参画企業が連携を保ちながら、研究全体としてほぼ計画通りの成果を得た。
香川大学グループは、希少糖が植物の生体防御や生長調節に及ぼす影響を解明し、希少糖の産業的利用に科学的根拠を提供するとともに、植物生理の機構解明に重要な情報を提供した。また参画企業では、独自の評価系を活用して利用技術の開発を図り、いくつかの希少糖について実用化の可能性を示した。
本プロジェクトは、大学発の研究シーズをもとに中央と地域の企業が連携して実用化を目指しており、同様の地域発プロジェクトの規範となる成功事例にするために、フォローアップを継続するべきである。また、有用希少糖の量産化の際のコストダウンが今後の課題である。

(2)中課題別評価

中課題A「希少糖のシグナル活性に関する研究」
(香川大学農学部 秋光 和也)

D-アロース由来の耐病性誘導機構の解明、D-タガトースの病害防除機構の解明、D-アロースの生育抑制機構の解明等に関する詳細な研究がなされ、膨大な質の高い成果が得られたことは高く評価される。D-アロースに関する「ヘキソキナーゼとの反応、D-アロース-6-リン酸の生成、G6PDHを介したRbohの活性化、Rboh由来のO2-発生、H2O2発生、過敏感反応死、Lesion-mimic形成による白葉枯病耐性の誘導」との仮説の証明、D-タガトースに関する「抵抗性誘導機構の誘起のみならず胞子形成阻害作用を有する」との発見は学術的価値が高い。さらに希少糖の生長調節作用に関するD-アロースのジベルリンシグナル抑制や、アブシジン酸シグナル活性化解明研究においても、多くの新しい知見が得られた。

中課題B「希少糖作用の農薬への用途開発を目指した試験研究」
(三井化学アグロ(株)農業化学研究所 田中 啓司)

D-タガトースに的を絞り、植物病害防除剤としての可能性を探った研究は独創的であり、意義のある研究成果が得られたと判断される。治療効果を併せ持つD-タガトースの、ジャスモン酸経由で抵抗性遺伝子を発現する作用の発見は、学術上並びに実用上意義あると思われる。生物系特定産業に対しても一定程度貢献したと思われる。本剤が予防効果のみならず治療効果をも有するという発見も含め、本研究は現在わが国で活発に行われている抵抗性誘導に関する基礎研究や新規植物抵抗性誘導剤の創製研究に与えるインパクトは大きい。しかしながら、効果を発現する薬量がかなり高く、最終的な実用化のハードルが高いと思われる。農薬としての実用化までには、コスト、市場性などの課題が残されていることから、今後も検討を継続し、論文発表や生物系特定産業への貢献につなげてほしい。

中課題C「希少糖の肥料養液素材としての実用化を目指した試験研究」
((株)四国総合研究所バイオ研究部 石田 豊)

レタス、トマト、イチゴ等を用いた「各種希少糖の肥料養液素材としての実用化を目指した研究」において一定程度の成果が得られたと判断される。D-タガトース等の添加により、レタス地上部重量が増加する効果が得られた。ただし生物系特定産業への貢献の観点からの経済性評価には、1作当たりの生育期間やレタスの価格設定などに留意する必要がある。D-プシコース処理と他の処理の組合せにより、高糖度でかつ1果当たり果実重量が維持されたトマトが得られるとの結果は、実栽培に貢献する可能性を有する。しかし、同時に成熟遅延が認められており、1作の栽培期間の全収穫量評価が必要と思われる。また高糖度トマトの尻腐れ果の発生頻度の抑制という発見は意義があるが、成熟遅延の帰結の可能性もあり、今後、更なる検討が必要であろう。イチゴに対する花芽分化促進等の成果には独創性が認められるが、実用性に関する検討が必要であろう。イチゴ炭疽病防除効果は、施設園芸にとって朗報であるが、市場規模やコストから農薬としての実用化にあたっては多面的な検討が必要であろう。