生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2010年度 事後評価結果

ゲノム情報に基づく麹菌全プロテアーゼの機能解析

(東京農工大学大学院農学研究院 竹内 道雄)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

(1)全体評価

国菌とも言える麹菌のゲノムに存在する推定プロテアーゼ遺伝子134種全てに関して解析を試み、これまでにプロテアーゼ遺伝子として確定した123種のうち97種について遺伝子産物を確認、74種について酵素学的性質を明らかにした。この成果をもとに麹菌プロテアーゼデータベースを構築したが、これが本プロジェクトの最大の成果である。この研究成果を活かすための技術開発ならびに実証試験として、セルフクローニング系の構築とその検証、プロテアーゼ剤の作製、本研究対象のプロテアーゼを用いて取得したACE阻害ペプチドの構造決定なども行われており、多数の成果を得ている。今後の研究に対しては大きなインパクトを与えると考えられ、また、産業上も新たな有用プロテアーゼの製品開発や機能性ペプチドの効率的製造という波及効果を及ぼすと考えられ、成果が大いに活用されることが期待される。
全体を総合して、優れた研究であると評価する。さらなる特許申請や学術論文の公表、使いやすい麹菌プロテアーゼデータベースの早期の公開等、今後の活発な情報発信を期待する。

(2)中課題別評価

中課題A「麹菌酸性プロテアーゼ等の解析」
(東京農工大学大学院農学研究院 竹内 道雄)

精力的に研究を展開し、このプロジェクトの中で、中核的役割を果たした研究である。対象とした酸性プロテアーゼのほぼ全てについて、発現情報、基本的な酵素学的性質を明らかにし、麹菌の生産する酸性プロテアーゼのデータとしては一級のものとなったと評価できる。また、他の中課題の成果も統合して麹菌プロテアーゼのデータベースを構築した。このデータベースは、本研究で得られた情報のみならず高次構造も含んだ麹菌プロテアーゼの総合カタログであり、世界を先導する研究成果であると言える。糸状菌分野ではプロテアーゼについての辞書の役目を果たすことになるであろうし、また、応用研究では、新たな有用プロテアーゼの製品開発や機能性ペプチドの効率的製造に役立つものである。全体を総合して優れた研究であると評価できる。使いやすい麹菌プロテアーゼデータベースの早期の公開、学術論文の公表等情報発信を期待する。

中課題B「麹菌金属プロテアーゼ等の解析」
(東京農工大学大学院農学研究院 山形 洋平)

金属プロテアーゼ、金属型カルボキシルペプチダーゼ、ジぺプチジルペプチダーゼを対象とし、各種遺伝子発現系の検討を通して、最終的に全36種のうち34種の遺伝子産物の精製あるいは部分精製に至った成果は高く評価できる。このうち基質特異性や性質決定が可能であったのは、20種に止まったが、この結果は残りの酵素が当初の予想と異なる新規酵素であることを示唆するものと考えられ、むしろ学術的にも産業的にも興味深い結果で評価すべき点である。以上から担当のプロテアーゼについて目標を達成し、学術的価値、生物系特定産業への貢献、いずれの観点からも相応の成果を挙げた意義のある研究であったと評価する。今後、金属プロテアーゼ等に関する特許の取得や学術論文の公表等、情報発信に十分努力して欲しい。

中課題C「麹菌アミノペプチダーゼ等の解析」
((独)農研機構・食品総合研究所 楠本 憲一)

アミノペプチダーゼ及び類縁ペプチダーゼを対象とし、精力的に実験を行い、最終的に全30種のうち25種の基質特異性や性質の決定に至った成果は高く評価できる。また、細胞内プロテアーゼの基質特異性の決定は、それぞれの酵素の生理学的役割を明らかにするための重要な情報を提供したものであり、さらに、真核生物では例のない基質特異性を有する酵素も発見した。以上から担当のプロテアーゼについて目標を達成し、学術的価値ならびに生物系特定産業への貢献、いずれの観点からも高い成果を挙げた優れた研究であったと評価する。情報発信については、5報の学術論文を発表しており概ね良好であるが、特許の出願に値する成果もあるのではないだろうか。今後に期待したい。

中課題D「麹菌セリンプロテアーゼ等の解析と新規プロテアーゼ剤の作成試験」
(天野エンザイム(株) 天野 仁)

プロテアーゼの解析については、クローン化、発現については目標を達成したが、酵素学的性質の解明については目標を大きく下回った。一方、プロテアーゼ剤の作製を優先し、当初目標5種に対して15種に再設定し、その内12種について作製を完了した。この判断は妥当であったと考える。以上から、当初とは異なる結果となったが目標は十分達成したと評価する。科学的価値に関しては、新規プロテアーゼの性質解明や単量体構造を持つATP dependent proteaseの発見など、いくつかの学術的価値の高い成果も挙げている。生物系特定産業への寄与に関しては、12種のプロテアーゼ剤の作製は質的にも、量的にも十分評価できる成果である。情報公開については不十分の印象は拭えない。以上を総合して、当初計画とは異なるものの、それと同等の成果が得られており、意義のある研究であったと評価する。

中課題E「プロテーアーゼ高発現に関する研究及び有用ペプチド製造試験」
(月桂冠(株) 石田 博樹 )

プロテアーゼの高発現技術の開発に関しては、20種の高発現株の育種、効率的なジーンターゲッティング技術の開発を行い、有用ペプチドの製造に関しては、新規ACE阻害ペプチドの同定、PEP阻害活性や抗酸化活性を有するプロテアーゼ分解産物の取得を行った。高発現のための宿主技術の開発および育種に関しては将来産業的にも利用しうる可能性の高い成果が得られ、この点は高く評価される。一方で、科学的価値に関しては、本中課題の性格から当然のこととして十分とは言えない。情報発信に関しては、本中課題の性格から特許出願が期待されるのだが、2件に止まっているため十分でないと考える。以上を総合して、産業利用の可能性の高い良好な成果が得られ、目標は達成し、意義のある研究であったと評価する。